健康と長寿は、人類の目標であり一番の願いです。「毎日を健康に過ごしたい」「できるだけ長生きしたい」というのが、多くの人の本音でしょう。しかし、「健康に生きる秘訣」や「長生きの秘訣」は、残念ながら明確に定義されていません。
ところが、長生きする人々を調査したところ、彼らには3つの共通点があることがわかりました。
今回は、調査から判明した長生きのための3つの秘訣「希望」「秩序」「コントロール」について解説します。
3つの秘訣の根拠
健康的に長生きするためには、つまり幸福に生きるには、以下の3つの要素が重要であることが科学的に明らかになっています。
- 希望…楽観的な見方をすること、あるいは皮肉的な考え方をしないこと
- 秩序…人生には意味があるという安心や信念を持つこと
- コントロール…人生を自分自身で掌握しているという実感を持つこと
はじめに、これらの根拠となる研究や調査をご紹介します。
長寿地域(ブルーゾーン)に関する研究

世界には、「ブルーゾーン」と呼ばれるもっとも長寿な地域が5つあります。イタリアのサルデーニャ島、日本の沖縄、アメリカはカリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカのニコジャ半島、そしてギリシャのイカリア島です。
これらの地域に住む人々の長寿の謎は、古くからさまざまな分野の研究者の好奇心を駆り立て、調査の対象となってきました。その結果、彼らにはいくつかの共通点があることがわかったのです。
これらの地域に住む人々の特徴として、住民が強い社会的つながりを持ち、生活に秩序を保ち、日常的に健康的な習慣を維持していることが挙げられます。たとえば彼らの多くは、家族との関係を大切にし最優先します。家族との時間を削ってまで仕事に身を捧げる、日本の都市的な労働スタイルとはまるで対称的に見えます。
そして彼らはまた、生活リズムや食生活など、ライフスタイル全般において規則正しく、規律的で秩序があります。週末に夜更かしをしてストレス発散するような価値観がほとんどないようです。
人とのつながり、規則正しいライフスタイル、そして健やかな習慣。こうした要因が重なることで、彼らは安心や安全、心の平穏を獲得し、楽観的な気持ちで日々を楽しんでいます。そして、こうした姿勢こそ、人生に希望を見出し、秩序ある暮らしを実現し、コントロール感を実感しながら生きるために必要な要素なのです。
心と健康の関係に関する研究

ポジティブ心理学の父として知られている、米国の心理学者であるマーティン・セリグマン博士が提唱する理論「PERMAモデル」では、ウェルビーイング(幸福)の5つの要素として以下を挙げています。
- P(Positive emotion)…ポジティブ感情
- E(Engagement)…没頭や没入
- R(Relationship)…良好な人間関係
- M(Meaning)…人生の意味や意義
- A(Accomplishment)…達成したり完遂したりする感覚
この中でも特に「ポジティブ感情」や「良好な人間関係」は「希望」と深く関わり、「人生の意味や意義」は「秩序」と、「没頭や没入」や「達成したり完遂したりする感覚」は「コントロール」と深く関わっています。
また、セリグマン博士は、学習性無力感の研究を通じて、自己効力感(自分の行動が結果に影響を与えるという信念)が心理的健康に与える影響を明らかにしました。彼の研究は、個人が自分の状況をコントロールできるという感覚が、ストレスの軽減や健康の維持に重要であることを示しています。
心理的コントロールと健康に関する研究

自己効力感や社会的学習理論で知られるカナダの心理学者、アルバート・バンデューラ博士は、自己効力感(コントロール感)とストレスの関係に関する研究の第一人者です。
バンデューラ博士は、自己効力感(コントロール感)が強い人ほどストレス耐性が高く、自己実現性やチャレンジ精神も強いと結論づけました。
バンデューラ博士の研究と、これまでに紹介したいくつかの研究や調査を統合的に解釈すると、健康と長生きの秘訣に「希望」「秩序」「コントロール」の3つが深く関わっていることは明らかです。
健康に長生きする3つの秘訣

「希望」「秩序」「コントロール」
ここまでは、この3つが健康や長寿に必要な要素である根拠を示しました。
ここからはいよいよ、それぞれの重要性について解説します。
希望
体調が悪くても、良い知らせが入ると気分が良くなったり、体調が回復したりしたことがありませんか?実はこれは錯覚ではなく、人間の機能として備わった順当な反応です。「希望」はストレスを軽減し、免疫機能を高めることがさまざまな研究により明らかになっています。
また、物事を楽観的に捉える人は、不運に直面しても前向きな捉え方をする傾向が強いこともわかっています。つまり、ストレスの少ない人生を送るには、「希望を持ち続ける態度=信念」がおおいに役立つということに他なりません。
逆説的には、物事を楽観的に捉えられるようになったなら、それは心身のコンディションが安定傾向にあるという吉兆であるということです。
自分の健康に関しても、楽観的な姿勢の人は長生きしやすいことがさまざまな調査によりわかっています。「まぁ大丈夫だろう」と考える人ほど予後が良く、「もうダメかもしれない……」と考える人ほど予後が悪いということです。
自分の健康をどう思っているのかですら、その人の寿命を左右する要因になっているのです。
楽観的な態度、つまり「希望を持つ」のは、人の健康や寿命を直接的に左右するほど重要です。
ちなみに、健康悲観主義者の死亡率は、男性で「健康楽観主義者」の2倍、女性で5倍に昇ります。
自分の健康に対する見方や思い込みが、精神的・身体的健康に大きく関与しているのです。
ストレス状態を挑戦、支配、義務感といったポジティブ感情でとらえる人は、嘆き苦しんだり、無力感や孤立感で捉えたりする人より病気になる可能性が低いことが分かっています。
秩序
「秩序」は、安定的な人間関係や生活インフラなどから構成される「暮らしの安心感」から生まれます。
たとえば「結婚」も、法令に則り夫婦の契り交わし、家庭を築くことによって生まれる秩序の一つです。人間の動物的な本能に基づいた繁殖行為を、一定の規律の元に社会が保障することで、誰もが安心して結婚できる秩序が生まれます。
実際に、結婚に満足している人は、免疫機能と精神のコンディションが安定している傾向があります。幸福感は、隣の庭を羨むよりも自分の庭を世話することで生まれるものです。しかしそのためには、自分にとっての「自分の庭」が何なのかを自覚する必要があります。
自分のエネルギー、自分の時間、自分の資産、あらゆる自分のリソースを自分や自分の大切な人を幸せにすることに使えば、物事はやがて自然と好転していくでしょう。そのために、他者の価値観に依存しない自律性や自立性、つまり「自分の人生を自分で掌握している」というコントロール感が欠かせません。
コントロール
コントロールとは、先述したアルバート・バンデューラ博士が提唱した「自己効力感」と似た、「自分の人生を自分で掌握している」「自分でコントロールできている」といったコントロール感を指します。
たとえば、これから何かが起こるという時、自分の人生に無力感を覚えている人は不安に駆られるでしょう。しかし、問題を解決したりトラブルを乗り越えてきたりした経験を持つ人は、「何か楽しいことが起こるかもしれない」という期待感を抱きます。
あるいは、神仏の信仰や、医師などを含むさまざまな支援者を信じる気持ちも、コントロール感を高めます。具体的には、偽薬を用いた治療法でも、結果に期待すると効果が表れるプラシーボ効果が典型的です。
プラセボとノセボについては、「健康の秘訣は「思い込み」だった⁉ 心が体を生かす人体の神秘」で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
ちなみに、ダイエット薬やリラックス運動の効果も、信頼できる人の言葉や信念の影響を受ける場合があります。ビタミンCなどサプリメントや各種栄養素も同様に、言葉や信念によって効き目が左右されることがあります。わかりやすい例が飲酒です。知らない人たちの中で飲酒するよりも、友人に囲まれたプライベートな空間の方が陶酔状態が起こりやすくなるのです。
このように、アルコールの影響一つとっても、状況や環境、心理状態、思い込み、信念に大きな影響を受けます。
ですから、たとえば新しい薬を試す際や、手術に臨む際、新しい習慣を取り入れる場合など、それらが自分の症状を良い方向に導いたり、より良いライフスタイルに改善できたりすると信じると、それ自体がプラセボ効果としてはたらき、実際にポジティブな生理的反応を生みやすくなります。
つまり、薬や手術を信じることが、自分の治癒作用を刺激して高めるということです。医師を選ぶ時も、薬を飲む時も、手術をする時も、ひいては友人や仲間を選ぶ時も、「心から信じられる相手を選ぶこと」が、心身の健康や幸せなライフスタイルを実現する上でとても重要です。
幸せに長生きするために
「病気は幸せな人を殺せない」という考えを持つ医師は少なくありません。幸福感と健康の相関性は、今では多くの医師や科学者が認めるところです。
高齢で健康状態が優れない人でも、幸福感を持つことで長生きできるケースもあります。また、信仰により良好なコミュニティに属したり、神仏を信じる前向きな気持ちを持ったりすることで、たとえ病弱であっても長生きするケースもあります。
逆に、愛情や支援が欠如し、最低限のチャンスも与えられず、安全の確保もされない環境や境遇で健康的に生き残るのはかなり難しいのが現実です。
幸福に長生きするためには、「希望」「秩序」「コントロール」の3本柱を軸に、より楽観的に生きられるよう状況を改善し、愛情や友情といった情緒的充足感を共有できる相手を作るのが理想的です。
【参考サイト】
・National Library of Medicine「How Long Would You Like to Live? A 25-year Prospective Observation of the Association Between Desired Longevity and Mortality」
・東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻公衆衛生学分野「How long would you like to live? A 25-year prospective observation of the association between desired longevity and mortality.論文概要」
・朝日新聞Reライフ.net「ブルーゾーン 世界の100歳人に学ぶ健康と長寿9つのルール」
・Positive Psychology「The PERMA Model: Your Scientific Theory of Happiness」
・青山学院大学「PERMA / ポジティブ心理学: ウェルビーイングの状態とは?」
・Back Up「人間の“幸福”や“喜び”などを研究する「ポジティブ心理学」の意義を聞く」
・カウンセリングしらいし「アルバート・バンデューラ「社会的学習理論」「自己効力感」」




