抗体源とは? 抗体源を増やして免疫力を高める方法を解説

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人のコンディションは、意外なほど「心」や「感情」に支えられています。

たとえば、体調が悪かったり元気がなかったりしたときに、家族や大切な友人の存在が支えになったり、ペットの存在が励みになったりした経験はありませんか?

ご近所付き合いやソーシャルワークなどの福祉、あるいは組合や協会などの組織も含め、人間は社会生活上のさまざまな面で社会的支援により支えられています。

日本に限らず、世界のさまざまな世界で多様な社会的支援システムが構築されているのは、人や物とのつながりから生まれる社会的支援が人のストレスや緊張を緩和し、より快適に生きやすくなるからです。

そして、家族や友人、ペット、コミュニティなど快適な人間関係や快適な環境は、実際に人の免疫力を高める「抗体源(こうたいげん)」となることが、さまざまな研究により明らかになっています。

今回は、これら抗体源と人間の心の相互作用により生まれる抗体をうまく活用し、免疫力を高めながら人生を健康的に舵取りする秘訣を解説します。

抗体源とは

抗体源は、元気や癒やし、勇気などポジティブな感情や感覚を与えてくれる存在すべてを指します。

たとえば安らぎを与えてくれる家族や、癒やしを与えてくれるペット、勇気を与えてくれる友人や知人、やる気を引き出してくれる仲間など。また、安心した生活を保障してくれる福祉制度や、同じ趣味や思考を共有できるコミュニティなど、私たちを支援してくれるあらゆる人や組織、コミュニティを指します。

これらの抗体源は、実際に人間の心理に強く作用し、免疫力をほとんど直接的に左右することがわかっています。たとえば、シカゴ大学の管理職向けストレス調査によると、心身ともに健康的な人ほど抗体源を多く持っていることがわかりました。特にコントロール感やチャレンジ精神、使命感といった強靭な精神力を持つ人ほど抗体源が多く見られますが、一方で十分な社会的支援を得られている人や、運動する人などにも多く見られることもわかっています。

強靭な精神力を持つ人や、十分な社会的支援が得られている人、運動する人。こうした人は人間や社会とのつながりや、運動など心身を健全に保つ環境を多く有しています。抗体源が多いので、健康的なライフスタイルを実現しやすいわけです。

多くの抗体源を持つ人が、近いうちに深刻な病を患う確率は10%以下。逆にこれらすべての条件を満たしていない人が重病になる確率は90%以上になるという報告もあります。

抗体源の存在はストレスホルモンの分泌を抑え、免疫機能に及ぼす悪影響を軽減するといわれています。たとえば心臓発作を起こした人でも、家でペットを飼っている人ほど生存率が高いといわれており、精神病院でもペットが身近な患者ほど回復が早いという報告もあります。

ありていには「家族やペットに元気をもらった」「友達を話して元気が出た」という言い方になるかもしれません。

しかし、こうした現象を科学的に考察すると、家族やペットなど自分を支えてくれる人や物(つまり抗体源)がそばにいると感じることで体内の抗体が増加し、ストレスが緩和されてポジティブな思考ができるコンディションを獲得した結果──と見ることができます。

つまり、心身共に健康に生きるには、抗体源をいかに増やすかが鍵になるわけです。

抗体源が心身に与える影響

ネズミや豚などの動物も人間と同じく、いつもと異なる環境に置かれるとストレスを感じ、血圧が上がります。ストレス値が上がると抗体が減少して免疫力が低下し、心身のコンディションを崩しやすくなります。

一方、前項で説明したようにペットの世話をしていたり植物を世話していたりする人は、暮らしや環境を自分でコントロールしているという実感から免疫力が高まり、心身にポジティブな影響があることがわかっています。

ひいては、自分の人生に自分で責任を取ろうとする気概のある人は、仮に強いストレスにさらされても、不安症や鬱症状などを発症しにくいという報告もあります。

つまり、今まで我々が「気分」や「精神力」のように漠然と捉えていたものが、実は心身の健康を大きく左右する重要な要素で、それらは抗体源にある程度依存しているということです。

抗体源が心身にもたらす影響を示す、具体的な例をいくつかご紹介します。

高齢者の死亡率の例

シカゴの老人ホームの閉鎖に伴う移転の知らせを受けた利用者のうち、冷静に対処した利用者は死亡率が低く、絶望感や敗北感に打ちひしがれた利用者はもっとも死亡率が高かったことが研究により明らかになりました。

人生に困難や絶望感を感じている人ほど抗体源が少なく、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなります。上記のケースのように、憂鬱な気分や絶望感などにさいなまれると抗体源が減少し、あるいは抗体源が減少した結果として憂鬱な気分になり、深刻な病になったり死に至ったりする確率が高くなるのです。

心身共に健康でいるには、頼れる人やコミュニティとの関係を築いたり、安心や癒やしを与えてくれる存在を獲得したりして、自ら抗体源を増やす必要があります。

感染症の例

伝染病が猛威を振るっていても、ウイルスに感染して発病するのは、免疫力が低下したごく一部の人間だけだといわれています。多くの健康的な人は、たとえ体内にウイルスが侵入したとしても、無症状のまま治癒したりそもそも発病しなかったりするケースが大半です。感染するかしないかは、物理的な病理メカニズムに加え、心理的な要因も大きく関与していると考えられています。

たとえばアジア風邪の研究では、鬱症状の傾向が強かった人はそうでない人に比べ、発病率が3倍も高く回復期間も長くなる傾向があったとされています。

HIVの患者を対象に行った同じ調査でも、同様の結果が示されています。併せて、ストレス管理や問題解決能力の会得が、HIVの発症予防に役立つことも明らかにされています。

ウェルビーイングと健康の相関性

内閣府が2024年8月に行った調査「満足度・生活の質に関する調査」では、「仕事と生活の満足度」が生活全体の満足度に大きく寄与していることが報告されています。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の「JILPT個人パネル調査「仕事と生活、健康に関する調査」第1回」でも、仕事と生活のバランスが取れている人々が、主観的ウェルビーイングや健康状態が良好であることが示されました。

また、デトロイトが実施した調査においても、もっとも健康状態が良い人は仕事と家庭生活の両方に満足している傾向が高いことがわかっており、逆に暮らしに不満を抱える人ほど何かしらの病症があることがわかっています。

コーネル医科大の調査では、不満や不幸を感じている人や、対人関係で問題を抱えている人は発病率が高いと報告されています。

ちなみに、働く女性はストレスが多いと考えられやすいですが、実は強靭な精神力やコントロール感、コミュニティやペット、福祉など十分な社会的支援、そして運動習慣など、健康増進に役立つ抗体源を多く持つ傾向があることがわかっています。

【出典】
内閣府「満足度・生活の質に関する調査」
労働政策研究・研修機構「JILPT個人パネル調査「仕事と生活、健康に関する調査」第1回」

抗体源を獲得するには

抗体源を獲得するには、リラックスすることがもっとも重要だといわれています。なぜなら、リラックスしている人ほど免疫機構の中心的な役割を担うリンパ球である「T細胞」が活発になり、コルチゾールやカテコールアミンといったストレスホルモンが減少することがわかっているからです。

結果的に人とのコミュニケーションがうまくいきやすかったり、動物や植物などに愛情を注げるだけの心理的リソースを確保しやすかったりするわけです。

また、リラックスすると満足感や幸福感を感じやすくなり、つまり幸福ホルモンが分泌されやすい状態になるため、精神的にも満たされた気持ちになりやすいのです。

逆に緊張していたり不安や恐怖にさらされたりしていると、免疫力が低下して体調が落ちやすくなるだけでなく、抗体源と良好な関係を築く気力や体力の確保が難しくなります。

フラストレーションに対する気分の低下や無力感、失望感などが強いと、ヘルペスなどの感染症にもかかりやすくなります。

事実、ウイルスと同じように、体内に潜在しているバクテリアの多くも、宿主がネガティブな気分になっていたり苦痛を感じていたりすると活性化することがわかっています。

抗体源を増やして病気にかかりにくいコンディションを作りたければ、怒ったり悲しんだりイライラしたりするのではなく、いつでもリラックス状態でいられるようなスキルを磨くのが一番の近道です。

健康的なライフスタイルには「気分」が必要不可欠

私たちは今まで、「気分」を過小評価していたかもしれません。

気分はあくまで個々の感情や感受性の問題であり、たとえ気分が悪かったとしても、我慢することで課題を克服できる平易なものだと考えられがちでした。しかし昨今の研究では、気分良く過ごす工夫こそが抗体源を増やし、結果として心身のコンディションを良好な状態で保ちやすくなることがわかってきたのです。

逆に「気分」を疎かにすると、活動範囲が限定的になると同時に抗体源が減少し、ストレスやウイルスのリスクにさらされやすくなったり、鬱症状を発症するなどメンタルリスクも大きくなったりすことが明らかにされています。

何事も「気持ちの問題」として安易に片づけず、気分良く過ごせる環境を丁寧に作りたいところです。心身ともに快適に過ごせるのなら、抗体源の獲得にある程度の時間や労力を注ぐ価値は十分にあるでしょう。

恋愛や結婚、家族関係、友人関係、職場の人間関係や顧客との関係、ペットとの関係や観葉植物との関係、かかりつけ医や行きつけのレストランの店員との関係など、あらゆる存在があなたの抗体源になり得ます。

身近に存在する人や物など、すべての存在との関係性を、この機会に今一度見直してみてはいかがでしょうか。