仕事のストレスが健康に及ぼす影響は、多くの研究から明らかになっています。特に多忙な現代社会では、仕事におけるストレスが心身に及ぼす影響を無視することはできません。
仕事で無力感を感じている場合や、日々の労働が無意味だと感じている場合はストレスがいっそう強くなり、心身のダメージとして蓄積されます。
もちろん、こうしたストレスの蓄積は免疫機能の低下を招き、さまざまな病気の発病リスクをも高めるので、できるだけ早めに対処しなければなりません。
今回は、仕事のストレスが健康に与える影響と、ストレスを軽減する働き方について解説します。
ストレスと集団発病

集団発病とは、特定の環境や状況において、複数の人々が同様の身体的または精神的な不調を訴える現象のことです。
たとえば、ストレス値が非常に高い職場などでは、集団発病が起こるリスクが高まります。特に社員やスタッフがコントロール感を持てない立場で働いている場合(ウエイターやブルーカラー系のワーカーなど)は、適応障害や心血管疾患などストレス関連疾患を罹患する確率が高いといわれています。
これに対し、管理職や役員など、仕事においてある程度の権限を持つ人々は、健康リスクが低いとされています。
これらは、仕事が身体的および精神的健康に及ぼす影響の大きさを示しており、コントロール感がない場合や低い場合は、ストレスが身体に与える影響が顕著になるということを示唆しています。
無意味だと感じる仕事に対しても、無力感やコントロール感の欠如が重なることで健康リスクが高まり、最終的に病気に至る確率が高まるのです。
仕事の満足感と健康

仕事の満足感は、単に給与や労働時間にとどまらず、日々の業務内容や職場環境に深く関わっています。満足感の高い仕事をしている人は、身体的にも精神的にも健やかでいられることが多く、QOLが高い傾向があります。
一方で、仕事に対する不満が多いと健康リスクが高まり、病気にかかるリスクが高まることがわかっています。
これに関連し、心理学的には「仕事の意味(ワークエンゲージメント)」を見いだすことが健康のために重要だとされています。自分の仕事に意味や目的、やりがいを見いだせると、人間は精神的に安定し、ストレスが減少することが確認されているためです。反対に、仕事に意味を感じない場合、無力感や不満が増大し、心身の健康を損なう確率が高くなります。
たとえば、「仕事の内容に意義を感じられない」「やりがいを見いだせない」といった状況は、慢性的なストレスとなり、心身を徐々に蝕みます。慢性的なストレスは免疫機能を低下させ、心臓病や高血圧、糖尿病など、さまざまな生活習慣病を引き起こす原因となります。
仕事に対する満足感を高めるためには、自分の業務内容に対してどういう意味を見出すか、あるいは職場の人間関係や働き方をどう最適化するか──という視点を持つことが重要です。
ストレスのない生活は必ずしも健康を保証しない

「ストレスをいかに上手く管理するか」は、健康的に生きるための大きな課題です。しかし、実はストレスが少ない環境にいるからといって、必ずしも健康でいられるわけではありません。
1874年にアメリカに渡って自給自足の生活をしていた宗教団体のフッター派信徒は、17世紀にヨーロッパで誕生したアナバプティストの一派で、共同体生活や質素な暮らしを重視し、世俗的な影響から離れた生活を送っていました。都会とは異なりストレスが少ない環境で暮らしていましたが、それでも他の社会の人々と同様に、精神的な疾患や身体的な不調に悩む人がいました。
さらに、憂鬱や不安の感情が特に田舎で多く報告されているという点からも、ストレスの少ない環境が必ずしも健康に良い結果をもたらすとは限らないということがわかります。
現代社会においても、都会に住んでいる人々が必ずしもストレスが多いわけではなく、田舎に住んでいる人の方が不安やストレスが大きいケースがあります。これらの事例からわかるように、健康的なライフスタイルには、仕事や日常生活におけるストレスだけでなく、心の持ち方や生活の質が深く関係しているのです。
罪の意識と健康への影響
宗教や文化におけるタブーや罪の意識が健康に及ぼす影響についても、興味深い事例があります。
宗教的な教義に反した行動を取った結果、罪の意識を感じ、その影響で身体的または精神的に不調をきたすケースが世界中で報告されているのです。特に、宗教的な価値観や社会的な慣習に背いた行動が、健康に悪影響を及ぼすケースが多いようです。
罪の意識や後悔の念は精神的なストレスとなり、身体にさまざまな病気を引き起こす要因となります。これもやはり、状況を自分でコントロールできない無力感や、取り返せない過ちを犯してしまった後悔や未練などのストレスにより、免疫力が低下した結果といえるでしょう。
目的と健康の関係

仕事のストレスを克服し健康的に生活するためには、「働く目的」を明確に持つのが効果的です。
「働く目的」は、心と体にポジティブな影響を強く与えます。仕事においても日々の生活においても、明確な目的を持って生きることは、ストレスに対抗するために非常に重要なのです。
「働く目的がある」「生きる目的がある」と感じることで、人は日々の困難や課題に対して強いモチベーションを持ち、解決策を見つける力を得ることができます。これにより、ストレスの影響を減少させ、健康を保ちやすくなります。
また、目的を意識することで、あきらめや絶望感に支配されず、物事に圧倒されることもなく前進する力が生まれます。毎日、自分の「働く目的」「生きる目的」を確認することが、精神的な健康を保つための基本的な方法であり、仕事においても自分が何をしているのか、なぜそれをしているのかを再認識することで健康を維持しやすくなります。
逆に、生きることをあきらめてしまうと、人間はいとも簡単に壊れてしまいます。あきらめの怖さについては「あきらめが生命力を奪う「あきらめ症候群」のリスク」をご覧ください。
小さな目標の達成が健康に与える影響
健康的なライフスタイルを維持するには、日々、小さな目標を設定し、それを達成していくのが理想的です。小さな目標を達成することで、人は「コントロール感」を得ることができ、精神的にも安定します。このコントロール感が、ストレスを上手に管理し、健康を保つための鍵なのです。
この手法はビジネスの現場でもしばしば採用されており、「スモールステップ法」と呼ばれています。
スモールステップ法では、大きな目標や課題を達成するために、達成可能な小さなステップに分けて行動します。一度に多くを目指すのではなく、少しずつ進めていくことで、焦らず無理なく目標に向かって進むことができるのがメリットです。小さな成功体験を積み重ねることで、モチベーションを維持しながら自信を深め、最終的に大きな成果につなげる──という考え方です。
「自分はできる」「自分はできた」という実感が日々の活力につながり、この活力が大きくなればなるほど免疫力も安定します。
このように、小さな目標を積み重ねて達成する習慣を持つことは、目標を着実に達成するためにはもちろん、心身ともに健康を保つために非常に重要です。
仕事のストレスはほどほどに
仕事のストレスが健康に与える影響は非常に大きいですが、満足感や目標設定、ワークエンゲージメントなど、精神的な要素も健康に大きな影響を与えることがわかっています。
今回紹介したフッター派の例のように、ストレスが少ない環境だからといって、人間は必ずしも健康でいられるわけではありません。仕事も同様に、環境や待遇だけでなく、心の持ちようや働く目的を確認することが大切です。
健康的に働きながら、高いQOLを実現するために、まずは小さな目標を達成することから始めてみましょう。その小さな習慣が、心身ともに健康を保つ秘訣です。


