健康の秘訣は「思い込み」だった⁉ 心が体を生かす人体の神秘

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「治る」という思い込みだけで、悪性リンパ腫(血液のがん)が治る可能性があると言ったら、皆さんは信じられますか?

あるいは、何の変哲もないサプリを「毒薬」と思い込んだまま服用すると、死に至る可能性があると言ったら、果たして皆さんは信じるでしょうか?

これらはにわかに信じがたい話かもしれませんが、いずれも実際にあったエピソードです。他にも、思い込みだけで病気が治ったり、逆に病気が悪化したりというエピソードは、枚挙に暇がありません。

今回は、上記2つのエピソードを具体的に紹介すると共に、「思い込み」が心身に与える影響について解説します。

プラセボとノセボの典型的な事例

はじめに、「治る」という思い込みだけで悪性リンパ腫が治癒したケースをご紹介します。

プラセボで悪性リンパ腫が治癒した事例

このエピソードは、1957年に米国のカリフォルニア州にて、末期の悪性リンパ腫患者に対し「クレビオゼン(Krebiozen)」という治験薬を投与した事例として知られています。

全身にがんが転移したその患者は、クレビオゼンというがんの特効薬の存在を新聞で知りました。そして、担当のフィリップ・ウェスト医師にクレビオゼンを投与するよう希望しました。

ウェスト医師は、患者の病状は既に手の施しようがないと判断していましたが、熱意にほだされて金曜日に注射薬を投与しました。

すると、翌週の月曜日には容体が一気に快方へ向かい、やがてがんが消失。10日後には退院できるほどに回復したのです。

ところが退院後に、その患者は「クレビオゼンには薬効が認められない」という記事を目にすることに。すると完治したと思われたリンパ腫が再発し、あっという間に末期的な状態に戻ったのです。

再び担当医となったウェスト医師は、この時点でプラセボ効果に期待し、「クレビオゼンに薬効が認められないというのは誤報です」と患者に告げ、より効果が高いクレビオゼンの投与を提案しました。患者は了承しましたが、実際に投与したのはただの蒸留水だったのです。

蒸留水を投与すると、患者の容体は再びみるみる回復しました。しかし今度はその2ヶ月後、患者はAMA(米国医師会)が発表した「クレビオゼンにはまったく効果がない」という報道を受け、がんが再発。その2日後に亡くなりました。

このエピソードは、プラセボの効果を示す典型的な事例として紹介されることがあります。古い症例で時代背景も現代と異なるため、医療の倫理的な課題や情報の信憑性などの問題がありますが、人体の神秘を感じずにはいられないエピソードです。

【出典】
National Library of Medicine「Psychological variables in human cancer」

ノセボで死に至る危険があった事例

次に紹介するのは、偽薬を過剰摂取して自殺を図った男性の事例です。

この男性は、恋人とのもつれから抗うつ薬を過剰摂取し、自殺を図りました。緊急救命室に搬送された頃には血圧80/40、心拍数140、顔面蒼白で今にも昏睡状態に陥りそうな重篤な状態でした。

しかし、後に男性が服用した抗うつ剤が偽薬だと判明すると、症状はすぐに消失し、健康を取り戻したといいます。

【参考サイト】
Life&Mind「病は気からは本当?3つの実話と病気を引き起こしかねない心理的要因」

プラセボ・ノセボとは

プラセボ効果(またはプラシーボとも)は、偽薬を用いて症状が回復すること。ノセボ効果は逆に偽薬を服用して症状が悪化することを言います。

どちらも偽薬を用いているわけですから、薬効はありません。しかし、「この薬は効果がある」「この薬は効果がない」「この薬は体に良い」「この薬は体に悪い」と思い込むことによって、その思い込みに準じた効果が表れる場合があります。これが「プラセボ」と「ノセボ」です。

実はプラセボやノセボは、医療業界だけでなく日常にもたくさん存在しています。

たとえば仕事に対する不満や日常の退屈さ、人間関係のトラブル、近隣の騒音や異臭、生活空間の照明不良に至るまで、私たちはあらゆる物事から影響を受けています。こうした小さな体験の一つひとつが「プラセボ」や「ノセボ」を促進し、心身に何らかの影響を与える可能性が大いにあります。

特に、仕事に対して不満を持ち、仕事における問題や課題への対応が困難に感じられ、かつ「自分は不幸だ」と思い込んでいる人は、何らかの病症を発症する可能性がもっとも高いとされています。

また、仕事等で自分の思い通りにいかない状況は、ストレスホルモンを多く発生させるほか、血圧を上げ、心臓病の罹患率を3倍高めるとも言われています。

さらに興味深いのが、米国で1万人を対象にした調査では、オクラホマ大学のスチュアート・ウルフ医学教授が「心筋梗塞などのリスクは、楽しみもなく人生と格闘している人ほど高い」と発見したことです。この調査では、「人生に対する不満」こそ、高血圧や高コレステロール値、肥満などよりも心血管疾患リスクを高める危険因子であることがわかりました。

つまり、人生に対する「絶望」「失望」「あきらめ」こそ、心身を蝕む最大の「ノセボ」なのです。

なお、こちらの調査では10年間に及ぶ追跡調査により、「人生とは格闘するもの」「人生とは満足できないもの」というネガティブな思考癖に注目することで、心臓発作の再発者を予測することにも成功しています。

心は体にどのように影響するのか

近年は技術の発展により、心が体にどのように影響しどのように作用するかを客観的かつリアルタイムで観測できるようになりました。絶望感を抱えている人や期待感を抱いている人、自己コントロールを失い途方に暮れている人の脳と体の変化をモニタリングするのも簡単です。

たとえば、夫を失って悲嘆に暮れる妻のように、「もうこれ以上は生きる意味がない」と絶望すると、免疫組織の一部である白血球の活動が抑制される様子が観測されます。家族の死や重病を経験した者の免疫機能が、白血球の反応能力の低下と共に認められたことを報告する研究もあります。

パートナーとの別離や喪失感だけでなく、孤独感に対処できない人もまた、同様のメカニズムで免疫機能が低下しやすいことが容易に想像できます。

イギリスの研究でも、妻を亡くした54歳以上の男性5,000人のうち、最初の6年以内に亡くなる人の確率は、そうでない人よりも40%程度高かったことがわかっています。

プラセボやノセボの影響を示すこのような事例は、他にもたくさん確認できます。

  • 症状が落ち着いていたがん患者の22歳女性は、自分が運転する車で交通事故に遭い、同乗していた母親を死なせてしまった。その後、再発したがんが全身に広がり、数時間後に亡くなった。
  • 心臓発作から回復して2年が経過した医師は、昇進に期待していた。しかし、昇進が見送られると激昂し、直後に倒れて心室細動で亡くなった。
  • 交通事故で子供を亡くした1年後に親が亡くなった。
  • 亡き妻を追悼して5周年記念のコンサートを開いた夫が亡くなった。

このように、「心」が「体」に影響を及ぼしたケースは枚挙に暇がありません。

ルイ・アームストロングの2番目の妻であり、ジャズ・ピアニストでもあったリル・ハーディン・アームストロングが、ルイの死後に行われた追悼コンサート中に心臓発作で倒れ、そのまま帰らぬ人になったのは有名な話です。

これらすべての出来事が「思い込み」だけで生じたとは言い切れませんが、メンタルが体調に影響を与えた可能性は十分にあるはずです。

孤独な人や苦悩する人などに免疫機能の低下が見られるという事実は、彼らのような境遇にある人々が高い確率で病や死のリスクを負っていることを証明する一つの証拠と言えるでしょう。

「絶望」「失望」「諦め」といった態度は、免疫機能だけでなく神経組織に直接的に作用し、病気を引き起こすトリガーになります。衝撃的な敗北感や、「もう進めない」「すべてを失った」といった絶望感は、自律神経を過剰に刺激するのです。

また、強い不安感や恐怖感に襲われると、視床下部が活性化され、続いて副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。この反応により心拍数や血中グルコース濃度が上昇し、体はエネルギーを瞬時に供給できる状態になります。同時に、脳内のエンドルフィンが分泌され、痛みに対する感受性が低下します。

この一連の反応は「逃走・闘争反応(fight or flight response)」と呼ばれ、危機的状況での対処を促す反面、心身に大きなストレスをもたらす生態反射で、最悪の場合はショックや血圧障害で死に至る可能性も。

このように、人間の「体」は「心」と密接な関係にあります。「心」が、身体的なコンディションやパフォーマンスを支配していると言っても過言ではありません。

健康的な暮らしには「心」の健康が必要

今回は、「心」が「体」に及ぼす影響について解説しました。

疑似科学やオカルトのように見えるプラセボやノセボですが、これらは医学の世界において古くからよく知られている反応です。そして本記事で紹介した事例の数々からは、コンディションだけでなく病状もまた「思い込み」により快方あるいは悪化することが示唆されています。

健康的なライフスタイルを実現するために、「思い込み」の力をうまく活用したいところです。

【参考サイト】
J-STAGE「ノセボ効果:実験的研究のレビュー」
Stanford University Libraries「My Heart: The Story of Lil Hardin Armstrong」