ユーモアは天然の健康薬 ~平和活動家から学ぶユーモアの価値~

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ユーモアがある人とない人とでは、ユーモアがある人の方が免疫機能が整っており、健康指数も高いことがさまざまな研究や調査からわかっています。

“笑い”が免疫力を高める! 笑いがもたらす健康効果」では、「笑う」という行為が人間の免疫機能にいかに良い影響を与えるかを具体的かつ詳しく解説しました。

今回は「笑い」の源とも言うべき「ユーモア」の価値について解説します。

ユーモアの価値を発見した平和活動家

米国のジャーナリストであり作家、平和活動家でもあったノーマン・カズンズ氏は、「笑い療法」を確立した人物として広く知られています。氏はニューヨーク・イブニング・ポスト(現ニューヨークポスト)の書評家としてキャリアをスタートし、やがて編集長へと出世。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神医学・生物行動科学の非常勤教授を兼任しながら、人間の精神態度と健康に関する研究を続けました。

氏はまた平和活動家として、米国の日本に対する原爆投下政策に一貫して反対し続け、広島と長崎に原爆が投下された後には来日し、原爆の影響でケロイドになった25人の女性を米国に迎え、形成手術を支援しました。

これにより広島市特別名誉市民に認定されたほか、1987年第1回谷本清平和賞を受賞。1990年には、人道支援や国際貢献など各分野で顕著な功績をあげた者を称えるアルベルト・シュバイツァー賞を受賞しました。

さらに2003年には、広島の平和記念公園に彼の記念碑が建てられました。

米国有数のジャーナリストであったカズンズ氏ですが、後年はもっぱら人間の精神態度と健康に関する研究に傾倒しています。彼が50歳の時に「硬直性脊髄炎」という難病を発症したのがきっかけでした。加えて薬アレルギーを持っていた彼は、医師が処方するあらゆる薬を受け付けませんでした。

しかし、ジャーナリストとしての血がそうさせたのか、彼は医師を頼らずに自分の病気について徹底的に調べ、最終的には「笑い療法」を確立。ジャーナリストへの復帰まで果たしています。

さて、そんなノーマン・カズンズ氏は、「否定的な思考や感情が病的な肉体反応を生むのであれば、肯定的な考えや感情が肯定的肉体反応を生み出すのは当然である」という理論を提唱しています。

カズンズ氏が確立した笑い療法によると、10分間も大笑いすると2時間の痛みを和らげる麻酔効果があるといいます。笑いが、痛みを和らげる脳内ホルモン(エンドルフィンやエンケルファリンなど)の分泌を促し、鎮痛剤として全身に作用するためです。

また、笑いが体の炎症や感染レベルを示す血沈速度を下げる効果があることが報告されているほか、楽しい気分になると免疫システムの一部であるIgAの抗体レベルが大幅に増加する研究結果もあります。

つまり、端的に言うと「ユーモアがある人ほど免疫力が高まりやすい」ことが示唆されており、実際にヒューストンのジョセフ病院では、ユーモアがあらゆる病気に対して有効であると報告されています。

逆説的にユーモアを対処法とすることで、免疫に関わる抗体レベルを高められることを証明したのが、ノーマン・カズンズ氏の「笑い療法」なのです。

そもそもユーモアとは

「ユーモア」という言葉の意味は、おそらくほとんどの人が知っていると思います。ニュアンスとしては「心を和ませるような面白さ」や「上品な洒落」といったところでしょうか。

しかし、実は「ユーモア」は科学的に明確に定義されておらず、「ユーモアとは何か」という問いに回答できる研究者はほとんどいません。

もちろん、ユーモアを科学的に検証し、明確に位置付けることに挑戦した研究者はいますが、ユーモアの機序は複雑難解過ぎて成功には至りませんでした。

一方、科学的に明確に定義されていないとはいえ、私たちは「ユーモア」を感覚的に理解することはできます。ユーモアをどのようにして学習し学ぶのか、どのようにして生み出すのかを体系的に説明することはできなくとも、今すぐに友達の前で、恋人の前で、家族の前で、自分なりのユーモアを披露することができます。

ユーモアの身につけ方を学術的に説明するのは難しいですが、次項では「ユーモアセンスの磨き方」の具体的なステップをご提案します。

ユーモアセンスの磨き方

笑うためにはユーモアが必要です。誰かがユーモラスな話をしてくれたら、そのユーモアを理解できるだけの教養が必要ですし、誰かをユーモアで笑わせる場合も同様です。ユーモアは「笑い」の源泉なのです。ですから、毎日を笑いながら楽しく生きるには、ユーモアのセンスが欠かせません。

本項では、ユーモアセンスを磨く3つのステップをご提案します。

ステップ1.物事をポジティブに解釈する

ユーモアのセンスを磨くために、まずは物事をポジティブに解釈する習慣をつけましょう。

たとえば、どこかへ外出するのに忘れ物をした場合を想定してみましょう。忘れ物を取りに行くために、自宅やオフィスなどへわざわざ戻らなければならない状況です。余計な時間や労力を割くことになりますから、自分のミスや落ち度に落胆したり、怒りを覚えたりするかもしれません。ましてそれが誰かに迷惑をかけてしまうようなミスであれば、いっそう気に病みがちです。

しかし、こういうときこそ、失敗したエピソードをポジティブに解釈してみましょう。

たとえば──

「たまにはいい運動だ」
「これを教訓に次回からは気をつけよう」
「忘れ物を取りにいく自分へのご褒美に、今夜はスイーツを買おう」
「忘れ物ついでにいつもと違うルートで、ほんの少しの探検を楽しもう」

──といった具合に、ミスや失敗をポジティブに捉えたり、チャンスに転換したりするのです。

ミスや失敗をポジティブに解釈するには、以下のようなシチュエーションも利用できます。

  • プレゼンテーションで失敗した場合は…「自分の弱点や苦手を炙り出し、改善に努めて成長するチャンスだ」と考える。
  • 転職活動で不採用になった場合は…「自分の強みやアピールポイントを再確認できた」と考える。
  • スポーツなど勝負事で負けた場合は…「次回の強化ポイントが明確になった」と考える。
  • 忘れ物をして戻る場合は…「いい運動だ」「いい教訓だ」「いつもと違うルートを使ってほんの少し探検してみよう」と考える。

このように、物事をポジティブに解釈する習慣をつけるのが、ユーモアセンスを磨く第一歩です。まずは1日1回から、ちょっとしたミスや災難、トラブルなどをポジティブに解釈することから始めてみてください。

ステップ2.物事をおもしろおかしく変換する

忘れ物を取りにいく手間や時間を「コスト」と捉えるのではなく、それを「チャンス」というふうにポジティブに解釈できるようになったら、次はそれをおもしろおかしいエピソードに変換することを意識してみましょう。ミスや失敗を、おもしろおかしい視点で再解釈できないかシミュレーションしてみるのです。

たとえば、銀行のATMで現金を引き出そうとわざわざ出掛けたのに、肝心のキャッシュカードを忘れてしまった場合、「畜生!二度手間だ!」と悪態をつく人もいれば、まるでハリウッド俳優のジム・キャリーが演じるコメディ映画のように「現金を下ろしに来たのにキャッシュカードを忘れた!現金を引き出しにきたのに!わ・ざ・わ・ざ・ね!」と、頭の中でおもしろおかしいセリフ(あるいは表情や声色、ジェスチャーも)に変換できる人もいるはずです。

あなたがもし前者のように悪態をつきがちなタイプなら、自分自身にイライラすることをやめ、頭の中でジム・キャリーになり切ってみましょう。ミスや失敗をユーモラスなエピソードに昇華できるようになったら、既にユーモアの上級者です。そのユーモアセンスは、毎日を健康的に楽しく過ごすための知恵としておおいに役立つでしょう。

ステップ3.誰かと共有する

ユーモアは、誰かと共有することでいっそうおもしろおかしくなります。笑いの力は人に伝播することでいっそう強くなりますから、自分のミスや失敗、ちょっとした災難などをおもしろおかしく変換できたなら、ぜひともその愉快なエピソードを誰かに話して共有しましょう。

ユーモラスで楽しい会話は笑いの力を生むだけでなく、相手との関係や絆を深めます。笑顔が伴う楽しいコミュニケーションは、人間関係を円滑にする潤滑油でもあるのです。

ユーモア思考を習慣にしよう

自身の健康回復のために笑い療法を取り入れて実践したノーマン・カズンズ氏は、コメディ映画やユーモアのあるコンテンツを毎日楽しむ時間を設けていたといいます。これは、特に「物事をおもしろおかしく変換する」プロセスで役立つ方法です。ユーモアの引き出しが多くなればなるほど、一つの物事をさまざまなパターンで解釈できるようになり、ユーモアの幅が広がるからです。

また、カズンズ氏は笑い療法のアプローチとして、ただ笑うだけでなく、それを毎日の習慣として続けることも大切にしていました。彼の体験は後に「Anatomy of an Illness(邦題:病気の解剖学)」という本にまとめられ、笑いが心と体のつながりにどう影響するかを改めて世に示しました。

単発的な大笑いも体の抗体レベルを一時的に上げますが、笑いは体の抗体レベルを高めるだけでなく「累積する」ことをカズンズ氏は発見しました。そのため、彼が実践した笑い療法では「習慣的に笑うこと」を重視したのです。

毎日を楽しく健やかに過ごすために、物事をユーモラスに解釈する習慣を身につけたいところです。

【参考サイト】
神奈川大学人文学会「ノーマン・カズンズ」

【参考資料】
・広島県平和記念資料館「ノーマン・カズンズ氏記念碑」