余命宣告は死の宣告ではない? ~余命宣告を受けて生き延びた人々~

すべて

余命宣告とは、治療が難しい患者に対し、あとどのくらい生きられるかを医師が客観的に予測して告げる行為を指します。

もちろん、医師がいくら医学の専門家であっても、余命宣告が必ずしも当たるわけではありません。むしろ、余命を宣告されることにより患者が生きる意欲を失い、かえって病状を悪化させるのではないかという意見もあります。

科学がどれだけ発展しても、人体の神秘はまだまだ謎が多く、ほとんどが解明されていません。もちろん、医師をはじめとした医療の最前線で奮闘する方々は、多くの人を病の苦しみから解放しようと頑張ってくれているはずです。

しかし、それでも生命を扱う「余命宣告」というデリケートな行為には、やはり賛否両論があります。

今回は、人間の心理的なメカニズムや脳科学的なメカニズムから、「余命宣告」の意義を考察します。

余命宣告は「呪い」になり得る

古代日本の呪術師や、オーストラリア原住民のアボリジニ、西アフリカからアメリカはニューオリンズ一帯の民間信仰として知られるブードゥー教のシャーマンなどは、「呪い」の力を使って人の命を奪ったといいます。

「呪い」というと、オカルトチックな超常的な力をイメージする人が多いと思いますが、実はれっきとした科学です。

呪いのメカニズムについては、「“呪い”は実在した! ~命を奪う“呪い”のメカニズム~」で詳しく解説しているので、興味のある方はこちらの記事も併せてご覧ください。

さて、呪いのメカニズムを簡単に説明すると、それは「洗脳」です。

「自分は呪われた」「私はもう死ぬんだ」と強く思い込ませれば込ませるほど、その人が死に至る確率が高くなります。人は生きることをあきらめると、体が「来るべき死」に備えて副交感神経が異常なほど優位となり、血圧が低下し、痛みや苦しみをできるだけ感じないように脳内麻薬を過剰に分泌します。この反応が強ければ強いほど体がショック症状に陥りやすくなり、命を落とす確率が高まります。

先の世界大戦にて、ケガも病気もないのに戦場で急死してしまう兵士や捕虜、生きる気力を失い絶望のまま急速に衰弱死する難民キャンプの子どもたち。いずれも「自分はもう生きられない」「死ぬしかないんだ」といった思い込みによるショック症状で命を落としたケースです。

あきらめが生命力を奪う「あきらめ症候群」のリスク
人生に挫折したり深刻な病に絶望したり……。生きているとさまざまな壁にぶつかったり苦悩を抱えたりするものです。そんな時、「負けてられるか!」とポジティブに奮起する人もいれば、「もうダメだ……」とネガティブに絶望する人もいるでしょう。 実は、物...

古代の呪術師やシャーマンは、この「思い込み」を最大限に引き出して他者を洗脳するために、役職と実績で権威性を高めていました。仮に誰とも知らない赤の他人に、急に「あなたを呪いました」と言われても、誰もさほど気に留めないでしょう。しかしこれが、過去に何十人、何百人もの命を呪術で奪ってきた名のあるシャーマンだったらどうでしょう?大半の人は不安に駆られたり、恐怖に陥ったりするはずです。

いかにもそれっぽい格好をしていたり、それっぽい道具を用いていたりすればなおさら効果てきめんでしょう。

このように、呪術師やシャーマンは己の権威性と共に、演出などを含めたさまざまな技術を用いて他者を洗脳し、「自分にはあなたの命を奪う特別な力がある」と思い込ませ信じ込ませることで、実際に他者の命を奪ってきたのです。

果たしてこの構造が、「医師の余命宣告」とほとんど同じであることに気が付く人が、どれだけいるでしょうか。

余命宣告の的中率

実際のところ、医師の余命宣告は、どのくらいの確率で的中するのでしょう?

査読付き学術誌「Current Oncology」の2014年4月号(第21巻第2号、ページ84-90)に掲載された論文「Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies?(腫瘍専門医は、標準的な化学療法後に進行性疾患を呈する患者の生存を予測できるか?)」によると、国立がん研究センターの標準治療で根治できなかった進行がん患者75名に対する医師の余命宣告の的中率は、たったの36%程度でした。

もちろん、いくら専門医とはいえ余命の日時をぴったりと言い当てることは不可能なので、この調査では「予測した期間の1/3以内であれば的中したものとする」としました。

この調査に携わった関係者は「これだけ大きな誤差が許容されるなら、かなり高い的中率になるだろう」と予想していました。しかし、フタを開けてみると、余命宣告の的中率は僅か36%だったのです。

現在では、「余命宣告は当たらない」というのが医療界の定説です。

余命宣告は必要か?不要か?

「余命宣告は当たらない」のが定説となった現代においても、いまだ余命宣告の是非を問う議論は絶えません。なぜなら、「余命を知りたい!」と考える患者もいれば、余命を知らされることで落胆し、いっそう衰弱してしまう患者もいるからです。

余命宣告の低的中率のエビデンスが既にあることから、医師による患者への余命宣告は即刻撤廃すべきだと主張する医師もいます。

患者の双方のニーズに応えるには、患者それぞれの性格を鑑みて、「余命宣告を行うべきか否か」を担当医やご家族が適切に判断する必要があります。第三者からすると、これほどデリケートで判断が難しい難題と向き合わなければならない医師にやや同情しますが、いずれにせよ要不要の議論は、患者双方のニーズがある以上、結論は出ないのでしょう。

ちなみに、女性セブンが2017年に実施した「セブンズクラブ」会員432人を対象とした「余命告知」についてのアンケート調査では、「余命を知りたい・知らせたい」とする人は77.8%、「余命を知りたくない・知らせたくない」とする人は22.2%という結果となり、余命宣告に肯定的な人の方が圧倒的に多い結果となっています。

余命宣告を受けて生き延びた例

余命宣告の的中率が低いことがわかりましたが、とはいえ「呪い」の効果のように、余命を宣告されることで意気消沈し、病状が悪化してしまうケースもないとは言い切れません。余命宣告が、まさにシャーマンの「死の宣告」のような働きをする可能性があります。

一方で、余命宣告に肯定的な人が多数派であるという現実もあります。

余命宣告が感情にどのように働き、心身のコンディションにどのように影響するかは、患者個々により違うでしょう。たとえば、余命宣告を受けたからこそ「残りの時間を精一杯生きてやろう!」と精力的に生きた結果、宣告された余命よりもずっと長生きできた──というケースもあります。一方で、余命宣告を受けた結果、「もうここまでか……」と絶望してしまい、そのまま衰弱して亡くなられる方もいるはずです。

しかし、深刻な病状にあって、余命を宣告されても生き延びることは本当に可能なのでしょうか?

ここからは、非常に深刻な状態にありながらも、余命宣告を乗り越えて生きた方々の実例をご紹介します。

長谷川一男さんの事例

2010年、39歳のときに激しい咳に襲われた長谷川一男さんは、病院で右肺葉原発の肺腺がんと診断されました。さらに、多発造骨型骨転移があり、ステージ4で余命10カ月と医師から宣告されました。

当時、ステージ4の肺がん患者の生存期間中央値は12カ月で、半数の患者が1年以内に亡くなっているという状況でした。しかし、長谷川さんは15人の専門医からセカンドオピニオンを受け、自分に最適な治療法を模索しました。その結果、放射線治療や複数の抗がん剤治療を組み合わせ、2025年2月現在も治療を継続しながら元気に生活されています。

また、2015年には肺がん患者会「ワンステップ!」を設立し、患者同士の情報交換や支援活動を行っています。

和田洋巳医師の患者の事例

京都大学名誉教授の和田洋巳医師が担当した患者の中には、「余命半年」と宣告されたにもかかわらず、18年経過した現在も元気に生活している方がいます。この事例は、がんの進行や患者の生存期間が一様でないことを示しています。

また、和田医師はこちらのケースを典型的な劇的寛解(標準がん治療ではおよそ考えられない寛解状態が長く続くこと)の事例として、PRESIDENT Onlineの記事内で紹介しています。

記事によると、劇的寛解を実現できた理由として、当該事案の患者さんは「食事療法を徹底した」と回答しています。

胃がんステージ4からの回復事例

一般社団法人日本がん難病サポート協会によると、胃がんのステージ4と診断され、余命宣告を受けた患者が、統合医療などの治療法を組み合わせることで、予想を超えて生存期間を延ばした事例が複数報告されています。

これらの患者は、標準治療に加えて食事療法や免疫療法などを取り入れ、生活習慣の見直しや精神的なケアにも努めた結果、長期生存を実現しています。患者自身の積極的な取り組みと多角的な治療アプローチが、余命を超える生存につながる可能性を示す好例です。

これらの事例は、余命宣告が絶対ではなく、治療法の選択や患者の心構え、生活習慣の見直しなどによって、生存期間が大きく変わる可能性があることを示しています。

がんに限らず、医師の予測を超えて症状が改善したり生存率が高まったりするケースも少なくありません。「寿命は自分で選択できる」を体現するかのような、多くの人を勇気づけるエピソードではないでしょうか。

「余命」はない。あるのは「生きる意思」だけ

こうして見てみると、私たちは科学に基づいた医療をつい盲信してしまいがちですが、人体の神秘的なメカニズムはまだまだ解明されておらず、わからないことばかりです。当然、医療にも限界があり、人体に関わる事象のすべてに対応できるわけではありません。

少しうがった見方をすると、場合によっては「医療を盲信した者が命を落とし、自らを信じたものが生き延びる」ということも実際に起こり得るのが現実の妙です。

いずれにせよ、自分の心身の現状がどうあれ、人の運命はその人自身の「生きる意思」により決まるのは間違いないようです。

「呪い」における「思い込み」や「洗脳」で命を落とすケースがあることからもわかるように、免疫力を適切な状態に保ちながら健康的に生きるには、「自分は楽しく幸せに生きている」と思い込み、自分自身を幸福な感覚で洗脳するのが一番なのかもしれません。

【参考書籍】
・週刊女性セブン 2017年9/7号 (発売日2017年08月24日)

【参考サイト】
National Library of Medicine「Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies? T.K. Taniyama, Curr Oncol. 2014 Apr; 21(2): 84–90.」
東洋経済ONLINE「「余命10カ月」宣告された男が10年生きて見たもの」
PRESIDENT Online「「余命半年」から18年たっても元気…がんの「余命宣告」はなぜ大きく外れることがあるのか」