私たちの脳は、無意識のうちに常に体全体と連動しています。
脳は体の各部位のコンディションに合わせて、神経伝達物質やホルモンの分泌量を調整し、体の一部の血流量さえもコントロールしています。
こうしたメカニズムを可能にしているのが、脳と神経の関係です。
脳は私たちの頭部に存在しますが、神経は手先や足先、耳の先など末梢神経まで、まるで網の目のように張り巡らされています。そして、私たちの思考や態度、感情に敏感に反応し、心身のコンディションに大きな影響を及ぼすのです。
「脳腸相関」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
気分や感情を統制する神経伝達物質やホルモン、自律神経、さらには免疫力に至るまで、脳と腸には高い相関性があることが近年わかってきました。
脳腸相関を簡単に説明すると、「神経伝達物質やホルモンの分泌、自律神経や免疫力などは脳に依存するわけでなく、小腸など腸内環境にも依存している」ということです。
そして、人間の思考や態度、感情は、しばしば心身のコンディションに左右されます。
体調がいいと気分がよく、他人にも優しくなれますが、たとえば歯が痛かったり頭痛がひどかったりすると、ついふさぎ込んでしまったり、機嫌が悪くなってしまったりするものです。
つまり、人間の思考や態度、感情の大半は、心身のコンディションに依存していると言っても過言ではありません。
さらに、心身のコンディションを支配しているのが免疫機能であり、免疫機能は「ストレス」を司る生活習慣や生活環境、ライフスタイル、人間関係などの影響下にあります。
今回は、脳とホルモンの関係、そしてそれらが免疫力やメンタルヘルスに及ぼす影響について解説します。
感情はホルモンに支配されている

皆さんは「感情」がどのように発生しているかご存知でしょうか。
感情や気分の変化は、神経伝達物質やホルモンに大きく左右されます。
たとえば、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)は、怒りなどの激しい感情を覚えたときや、戦闘などの興奮状態にあるときに分泌されます。そうして脳を覚醒させることで、状況に適した大胆な決断を促したり、身を守る行動を選択させたりするのです。
しかし、このホルモンが過剰に分泌されると、心臓や血管に負担をかけ、高血圧やコレステロール値の上昇を引き起こしやすくなります。一方、ノルエピネフリンが不足し過ぎると、今度は気分が落ち込みやすくなり、憂鬱な状態に陥りやすくなるリスクが高まります。
副腎髄質で分泌されるエピネフリン(アドレナリン)も、ストレスを感じたときに分泌されるホルモンの一種です。
エピネフリンの分泌は、ノルエピネフリンと同様、短期的には危険から逃れるためなどに役立ちます。しかし、過剰分泌が長期化すると、免疫機能を低下させるリスクが高まります。ストレスホルモンであるコルチゾールもやはり、長期的に分泌され続けると免疫機能の低下リスクを招きます。
つまり、ホルモンの慢性的な過剰分泌は免疫機能を低下させ、感染症にかかるリスクを高める可能性があるのです。
「幸福ホルモン」と呼ばれているドーパミンやセロトニンといったホルモンもまた、感情を調整する重要な神経伝達物質です。
ドーパミンの過剰分泌は精神疾患のリスクを高め、セロトニンの不足は憂鬱症を引き起こす可能性があります。ホルモン物質にはさまざまな種類がありますが、いずれもバランスが崩れると、感情や精神にさまざまな悪影響を及ぼすのです。
このように、私たちの感情や情緒を含むメンタル全般は、ホルモンに大きく依存しています。
ホルモンが身体に与える影響

ホルモンの分泌は、メンタルだけでなくフィジカル(体)にも大きな影響を与えます。
たとえばノルエピネフリンやエピネフリンが過剰に分泌されると、心血管系の疾患リスクが高まり、心臓発作や動脈硬化の発症リスクを高める場合があります。ストレスが慢性的に続くと、副腎皮質が過剰に刺激され、免疫組織が弱体化します。その結果、ウイルスや細菌感染のリスクが増大し、体調を崩しやすくなります。
また、長期間の気分の落ち込みは、体の免疫機能を抑制する化学物質の分泌を促進します。同時に、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きも低下します。
ホルモンや神経のコンディションは、食習慣にも影響を受けます。
たとえば炭水化物や菓子類を摂取すると、脳内のセロトニン量が増加し、気分がよくなるケースがあります。同時に「幸福ホルモン」や「脳内麻薬」とも呼ばれるエンドルフィンの分泌を促し、痛みを軽減する効果も。さらに、炭水化物や糖質は、興奮作用のあるノルエピネフリンやエピネフリンの分泌を抑制する傾向があるため、緊張を緩和する効果もあります。
しかし、ご存知の通り炭水化物や菓子類の過剰な摂取は、健康を害する可能性があるため注意が必要です。
このように、体と心の健康は、日常生活におけるさまざまな要素が複雑に絡み合って作られています。食習慣やちょっとした思考の癖など、物事をどう捉えどう解釈するかといった些細なことが、実は心身のコンディションを大きく左右するのです。
健康的に生きるために、ひいてはストレス社会で生き抜いていくためにも、私たちはストレスや免疫に関する人体機能について真剣に学ぶ必要があります。
健康的なメンタルを養うにはどうすればいいのか

健康的なメンタルを維持するには、生活習慣を見直したり、ストレスに対策したりする必要がありますが、もっとも手軽に取り組みやすいのが「食生活の改善」です。
食事の栄養バランスに気を払うのは、心身の健康を保つ上で実はとても大切です。神経伝達物質の生成には、特定のアミノ酸が欠かせないからです。
たとえば、桜えびやチーズ、大豆食品などに豊富に含まれているチロシンは、ノルエピネフリンやドーパミンの分泌を助け、うつ症状の改善に役立ちます。乳製品や卵などに豊富に含まれているトリプトファンは、セロトニンの生成に必要な必須アミノ酸で、苦痛を和らげ気分を安定させる効果があります。
また、牛・豚・鶏などの肉類やナッツ類、穀物などに含まれるコリンは、認識機能を向上させるとともに筋肉を正常に動かす効果に期待ができます。
安定したメンタルを作るためには、食事のタイミングや内容も大切です。
昼食に炭水化物を多く含む食品を摂取すると、脳内のトリプトファンが増加し、リラックス効果が得られる一方で、集中力や鋭敏さが低下することも。
逆に、タンパク質が多い食事は心身に緊張感を与えやすいため、リラックスしたい場合には不向きです。
心身の健康を維持するために、食事とメンタルの関係を理解し、必要なタイミングで必要な栄養を摂取することを意識しましょう。
脳とホルモンを理解し、心身を健康に

気分や思考がホルモンの分泌に影響を与え、それがさらに体に反映されるという相互作用は、日常生活において重要な意味を持ちます。脳やホルモンが体に与える影響を理解することで、より健康的な生活を送ることができるでしょう。
ストレスや不安を抱え続けると、副腎皮質が刺激され、免疫力を低下させる原因となります。ですから、できるだけリラックスしたりポジティブな思考を持つために、リラクゼーションや思考法などのテクニックを取り入れるのがおすすめです。
健康的なライフスタイルを実現するには、物事の捉え方や考え方を見直す作業も欠かせません。ストレスを抱え込まず、体に適した食事や適度な運動を取り入れることで、心と体のバランスを保ちやすくなります。
脳やホルモンなど人体の神秘に思いを馳せながら、ライフスタイルを見直してみましょう。



