「ストレス社会」と呼ばれるようになって久しい日本社会。
私たちは「ストレス」という言葉を日常的に耳や口にしていますが、そもそも「ストレス」を正しく理解している人はどれくらいいるでしょうか?
ストレスは、実は心身の健康にとても密接で、免疫力を左右する重要な要素でもあります。
今回は「ストレスとはそもそも何なのか」をテーマに、ストレスについてわかりやすく解説します。
ストレスとは

「ストレス」という言葉は物理学の分野で使われていたもので、もともとは「物体が外側からの圧力により歪んだ状態」を指します。英語では「Stress」と書き、「distress(苦悩、苦痛)」が語源だと言われています。
やがてこの概念は生理学的な分野でも使われるようになり、私たちが普段から使用する「ストレス(日本語に訳すなら「精神的緊張」「精神的圧力」「精神的重圧」など)」が普及しました。
さて、私たちは普段の暮らしの中で、大なり小なり必ずストレスを受けて生きています。自覚できないほどの弱いストレスもあれば、精神的負担を感じる強いストレスもあります。
ストレスを生じさせる原因は「ストレッサー」と呼ばれており、ストレッサーには以下の3つの種類があります。
| 物理的ストレッサー | 寒さや暑さ、痛みや騒音など |
|---|---|
| 心理・社会的ストレッサー | 家庭問題など人間関係や仕事の悩みなど |
| 化学的ストレッサー | 公害や薬害、一酸化炭素中毒や酸素欠乏など |
私たちが日ごろ口にしている「ストレス」は、主に「心理・社会的ストレッサー」を指します。たとえば──
|
──などがあげられます。
ストレス反応
ストレッサーによりストレス反応が引き起こされると、身体的あるいは精神的な変化が起こります。ストレス反応は主に「心理面」「身体面」「行動面」に分けられ、それぞれ次のような反応を示します。
| 心理面 | イライラ、不安、抑うつ(気分の落ち込み)、無気力など |
|---|---|
| 身体面 | 頭痛、肩こり、不眠、胃痛、便秘や下痢、食欲低下、炎症、動悸や息切れなど |
| 行動面 | 仕事のミスや事故の増加、飲酒量・喫煙量の増加、ヒヤリハットの増加、ギャンブル依存や性依存など |
ストレッサーが大きくなればなるほど、ストレス反応も大きくなります。併せて免疫力も低下し、さまざまな不調が生じたり病を患いやすくなったりします。さらに、ストレスが慢性的になるとストレス反応が常態化し、心身のコンディションが低下します。
このように、「ストレッサーによりストレスを受けると、人体のストレス反応が引き起こされ、心理面、身体面、行動面でさまざまな影響を受ける」というのが、ストレスの基本的な構図です。
では、次項ではストレスのメカニズムについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
ストレスのメカニズム

ストレス反応が引き起こされているとき、人体では何が起こっているのでしょうか。
体内で起こっている現象を簡単に説明すると、次のようになります。
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ラベル1.脳が反応する
ストレスを感じると脳の偏桃体(へんとうたい)が反応します。偏桃体は、危険を察知するセンターのような役割で、危険信号を視床下部という司令塔に送ります。
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ラベル2.闘争・逃走反応が起こる
ストレス反応が起こり、体を「緊急対応モード」にするために、視床下部が自律神経(特に交感神経)に命令を出します。これを「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」と呼びます。一瞬にして心拍数や血圧の上昇したり、瞳孔が開いたり、呼吸が浅く早くなったりといった生理的変化が生じます。
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ラベル3.コルチゾールの分泌
視床下部 → 脳下垂体 → 副腎 という順に命令が伝わり、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールの詳細については「コルチゾールの役割とはたらき ~ストレスホルモンと免疫の関係~」をご覧ください。
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ラベル免疫システムへの影響
ストレス反応は、短期的には免疫力がアップするケースもありますが、慢性化すると炎症性サイトカイン(IL-6など)が増え、慢性炎症のリスクが上がります。自己免疫疾患(リウマチ、甲状腺疾患など)を悪化させたり、がんの抑制力が低下(NK細胞の活性が落ちる)したりなど、免疫力の低下につながります。免疫の仕組みについては「免疫の仕組みとは? 免疫機能の働きと役割をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。


良いストレスと悪いストレス

ストレスは免疫力を低下させる大きな要素ではあるものの、すべてのストレスが悪いわけではありません。むしろ、「適度なストレス(ユーストレス)」は、集中力やモチベーションを高め、学習や仕事のパフォーマンスを向上させます。
問題なのは、「慢性的に解消されないストレス」です。
慢性的なストレスがもたらす“あきらめ”
慢性的なストレスに長期的にさらされていると、人はやがて「このストレスを解消するのは難しい」と考えるようになり、自分の暮らしや人生からストレッサーを除外するのをあきらめてしまいます。
この「あきらめ感」が心身により深刻な影響を与え、さまざまな病気を引き起こす原因になります。
ニューヨークのローチェスターの精神医療専門家チームは、20年の経過観察に基づき、多くの病人が発病前にあきらめ感や絶望感を抱いていたことを突き止めています。
また、国境なき医師団のメンバーでありニュージーランドの精神科医でもあるベス・オコナー博士の調査によると、「絶望」や「あきらめ」が心身の健康や脳機能を著しく低下させ、最悪の場合は衰弱死に至らしめる恐れがあることがわかりました。
博士はこれらの症状を「生存放棄症候群(Resignation Syndrome)」、通称「あきらめ症候群」と名付け、そのリスクに警鐘を鳴らしています。
これらは、スウェーデンでは「抑うつ的活力喪失(Depressive Devitalization)」「広汎性拒絶症候群(Pervasive Refusal Syndrome)」とも呼ばれ、医学的に正式に認められた病症として知られています。

ストレスのさらなる悪影響
過度なストレスはさまざまな病気の原因となりますが、さらに悪いことに、病気になると多くの人が、その病気を理由に他の人を操作したり、家族や友人を欺いて彼らを犠牲にしようとします。問題なのは、病気を患った人の大半がこれを無自覚に行ってしまうことです。
そして、犠牲者もまた支配やコントロールから現実逃避する方法として「あきらめ」の態度を取り、自分を支配しようとする人よりももっと重い病気になるケースが多々あります。この悪循環は、心身の健康からもっとも遠い「最悪な負のサイクル」といえるでしょう。
「あきらめの言葉」や「無気力な言葉」には、自分や周りの人の健康を害する毒性があります。だからこそ、あきらめ感や無力感が強くなっているときほどネガティブな言葉を口にするべきではありません。それは自らの健康を奪う呪いの言葉となり、災厄を引き寄せます。
さて、「ストレス時の体内の現象」の項で先述した通り、人はストレスを感じると「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」を起こし、「戦うか逃げるか」という判断を脳内で下します。
しかし、ストレスが慢性化して問題の解消が困難な現実を目の当たりにすると、次の段階で「控え、引っ込み反応」へと変化します。この反応は、苦痛や困難の源(ストレッサー)から自分自身を切り離す防衛本能によるものですが、ある意味では「苦痛を減らして無感覚を召喚する“死への備え”」であり、闘争・逃走反応のように「生き延びるための方策」とは対極に位置する反応です。
あきらめ症候群は、まさに「控え、引っ込み反応」の典型といえます。
あきらめ感や絶望感、無力感などが生まれる「控え、引っ込み反応」は、いわば人体の活動停止反応ですから、自律神経や免疫システムも十分に機能しなくなります。その結果、病気のリスクや死のリスクが高まるのです。
「控え、引っ込み反応」の例
「控え、引っ込み反応」の例としてあげられるのが、飢餓に苦しむ子どもです。コンゴ民主共和国や東アフリカ地域などの子どもが、膝と胸がくっつくくらい背中を丸めている様子をテレビなどで見たことがある人は多いでしょう。
また、壊滅的な災害に遭った際に、顔に手をやり、肩を落として膝を丸めて丸くなる人の光景を見たことがある人も多いはずです。
どうしたらいいか分からない時に、交感神経と副交感神経が交互に反応し、「戦うか逃げるか反応」と「控え・引っ込み反応」が急激に繰り返されます。うつ状態と躁状態を繰り返す躁鬱と似た反応ですが、うつと躁を急激に繰り返したり、あるいは脳がこれらを両立させようとしたりすることで、心身への負担はいっそう大きくなります。
結果、精神疾患をはじめ、不整脈や心筋梗塞など心血管疾患のリスクも高まります。つまり、あきらめ症候群同様に、病気や死などのリスクが高まるのです。
ストレスを軽減するには
ストレスを軽減するには、生活環境を見直したり、生活習慣を見直したりするのが効果的です。まずは自分にストレスを与えているストレッサーを特定し、対策したり処理したりするのが賢明でしょう。
ストレッサーを排除できない場合は、自分自身のマインドセットや心の持ち方、考え方などにテコ入れする必要があります。
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