睡眠の質が高いと免疫力が高まり、睡眠の質が低いと免疫力も低下することはよく知られています。
しかし、どのようなメカニズムで睡眠の質が免疫に影響するのかまで理解している人は、専門家でもない限りそれほど多くはないのではないでしょうか。
今回は、睡眠の質が免疫力に与える影響とそのメカニズムについて、わかりやすく解説します。
そもそも「免疫」とは

「免疫」とは、血管やリンパ節、腸管や粘膜表面など、体のさまざまな部位に分布している免疫細胞やタンパク質(自然免疫に関与する補体、獲得免疫に関与する抗体など)や、それらと関連して人体の免疫システムを司る機能の総称です。
免疫細胞は、外部から侵入してこようとする病原体などの異物を攻撃し、排除しようとします。細胞によりさまざまな役割があり、ある細胞は突撃部隊のように戦場の最前線で異物と闘ったり、ある細胞はスナイパーのように後方から援護射撃をしたり、ある細胞は斥候のように敵の情報を収集し、司令官に伝える役割を果たしたりなど、まるで軍隊のように統率された複数のチームにより機能しています。
免疫機能が低下すると(つまり体の中の兵隊が減ったり弱ったりすると)、ウイルスや細菌などさまざまな病原体が体内に侵入しやすくなり、感染症にかかりやすくなったり炎症を起こしやすくなったりなど健康リスクが高まります。
免疫の仕組みや各種免疫細胞の働きなどについては、「免疫の仕組みとは? 免疫機能の働きと役割をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。詳細について知りたい方は併せてお読みください。

睡眠の質が免疫力に影響を与える理由

免疫機能が睡眠の質に左右される理由は、免疫機能を調整・強化するホルモンやサイトカインが睡眠中に分泌されるからです。
たとえば、深い睡眠(ノンレム睡眠)中には、免疫細胞(T細胞・B細胞・マクロファージなど)の増殖や修復を促進する成長ホルモンが分泌されます。
免疫細胞が感染と闘うために必要なサイトカイン(インターロイキン-1、TNF-αなど)も睡眠中に分泌され、これにより免疫細胞が適切に働き、感染防御が強化されます。
逆に睡眠不足が続くと、ストレスホルモンのコルチゾールが増加し、免疫抑制が起こります。つまり、免疫力が低下するのです。
良質な睡眠を取ることでコルチゾールの分泌が抑制され、免疫細胞の活動が正常化すると共に、T細胞の接着能力(ウイルスやがん細胞への攻撃力)が向上します。
寝ると免疫力が高まったり整ったりする理由を、もう少し具体的かつわかりやすく紐解いてみましょう。
1.エネルギー配分が変わるため
起きている時と寝ている時とでは、生命活動に要されるエネルギー量が異なります。
起きている間は脳や筋肉、消化器官などがエネルギーを大量に消費しますが、睡眠中はこれらのエネルギー消費が抑えられ、その分を免疫系の修復や強化に配分されるのです。夜間に傷の治りが早くなるのは、免疫細胞が夜間に活性化されるためです。
2.自律神経が変化するため
起きている間は交感神経が優位で、寝ている間は副交感神経が優位になります。
活動モードである交感神経が優位だと免疫細胞は抑制されがちですが、副交感神経優位のリラックスモードになると免疫細胞が活性化し、体内の異物や異常を排除しやすくなります。
3.免疫学習・免疫記憶が行われるため
T細胞やB細胞などの獲得免疫は、過去の感染情報を記憶して次回の防御を強化します。
実はT細胞やB細胞は、睡眠中に抗原情報を整理し強化することが、最近の研究で明らかになっています。
4.細胞修復のバイオリズムがあるため
睡眠中はサイトカイン(免疫細胞同士の情報伝達を担うメッセンジャー)の分泌量が増え、傷や感染を修復します。寝ている間に修復プロセスを進め、起きている間の生命活動の準備を整えるのです。
統括すると、眠ることで脳や体のシステムが修復モードに切り替わり、体の消費エネルギーを修復や回復に回すよう設計されている──ということです。日中はエネルギーを消費して活動し、夜間は省エネモードになって回復を促すというバイオリズムのようなサイクルが、人間の体にはもともと備わっているのです。
このサイクルを健康的に保ち、免疫システムの正常な機能を維持するために、規則正しい生活や十分な睡眠、ストレス管理といった健康的な生活習慣が必要です。
睡眠の質と免疫力向上に関する科学的根拠

以下の文献やデータが示す通り、睡眠不足が免疫応答に悪影響を与えることはさまざまな研究で確認されています。睡眠時間が不足していると、免疫細胞の機能が低下し、炎症マーカーの上昇が見られます。また、質の良い睡眠のポジティブな影響についても、複数の研究が実施されています。
・Penelope A. Bryant、John Trinder、Nigel Curtis. (2004). Sick and Tired: Does Sleep Have a Vital Role in the Immune System? Nature Reviews Immunology.
・Irwin, M. R. (2019). Sleep and inflammation: partners in sickness and in health. Nature Reviews Immunology.
・Cohen, S., et al. (2009). Sleep habits and susceptibility to the common cold. Archives of Internal Medicine.
・Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
【参考サイト】
・Nature「Role of sleep deprivation in immune-related disease risk and outcomes」
・National Library of Medicine「Effect of sleep deprivation on response to immunization」
・National Library of Medicine「Sleep and immune function」
・National Library of Medicine「The effects of sleep loss on medical residents’ emotional reactions to work events: a cognitive-energy model」
・MAYO CLINIC「Lack of sleep: Can it make you sick?」
・National Institutes of Health「NIH-funded study shows sound sleep supports immune function」
睡眠が免疫力に及ぼす影響
睡眠不足は免疫力を著しく低下させ、風邪やインフルエンザなどの感染症への抵抗力を弱めるだけでなく、炎症を促進し健康に深刻な影響を与える可能性があります。不眠などで悩んでいる方は、「免疫力を低下させる「不眠」 ~不眠の原因と対処法~」が、不眠改善の参考になるかもしれません。
一方、質の良い睡眠は免疫力を向上させ、病気から体を守る力を強化します。日々の睡眠を見直すことは、免疫力を高め、健康を守るためにとても重要なことです。

睡眠はただの休息だけではなく、免疫系の強化に重要な役割を果たしています。免疫力を高めて健康的な毎日を送るために、良質な睡眠が取れるよう工夫しましょう。


