高度経済成長期以降、特に1970~1980年代にかけて「ストレス社会」と呼ばれるようになった日本社会。当時は労働時間の長時間化や過労死といった問題が注目されました。その後、2000年代に入るとサービス残業やパワハラなどが社会問題となり、「ブラック企業」という言葉が誕生。ストレス社会がいかに長く続いているかを伺い知れます。
さて、ストレス社会と呼ばれて久しい日本社会ですが、近年は労働基準法の改正・ダイバーシティ・SDGsの推進などにより、社会体質がアップデートされてきました。働き方やライフスタイルが多様化し、少なくともストレス社会と呼ばれ始めた当時の日本社会よりは、誰もが「自分らしい生き方」を模索しやすくなったはずです。
ところが、1970年代からの日本国民の自殺率の推移を見てみると、自殺者は減少するどころか、ほとんど変わらないか、むしろ増加傾向にあります。
私たち日本人を蝕む「ストレス」を克服するには、どうすればいいのでしょうか?
今回は、ストレスを軽減するライフスタイルをご提案します。
ストレスは万病のもと!

ストレスはなかなか可視化されませんが、実は人間の体と心にとても大きな影響を与えます。「風邪は万病のもと」という言葉がありますが、「ストレスは万病のもと」と考えた方が現代的でしょう。
事実この言葉は決して誇張ではなく、本当に人間はストレスに蝕まれるとさまざまな病気にかかりやすくなります。風邪はもちろん、がんや心血管疾患から歯痛まで、とにかくあらゆる病気にストレスが密接に関わっています。
たとえば、試験当日や重要なプレゼン当日に体調を崩した経験はありませんか?あるいは「こんな時に限って!」というタイミングで風邪をひいてしまう経験をしたことがある人も多いはずです。
もちろんこれらは偶然に起こったのではありません。特定のイベントに対する不安や緊張からストレスが大きくなり、免疫力が低下した結果なのです。
過労などもメカニズムは同じで、労働によりストレスを溜め込んだ結果、免疫力が低下して動脈硬化や高血圧、糖尿病などのリスクが増大します。そうして命を落としてしまうのが過労死です。
では、ストレスを軽減しながら生きるには、どうすればいいのでしょうか?
ストレスフリーなライフスタイルとは

ストレスとは、外部から刺激を受けた際に生じる緊張状態のことです。ストレスの感じ方は人それぞれですが、ストレス源の種類はある程度特定できます。
主なストレス源は次の通りです。
| ストレス源 | 概要 |
| 1.身体的要因 | 怪我などの外科的な障害や、感染症やガンなど内科的な障害などに基づくストレス。 |
| 2.精神的要因 | 鬱や双極性障害、統合失調症など、精神疾患に基づくストレス。 |
| 3.心理的要因 | 人や物や事象に対する不満や怒り、不安、悲しみなどに基づくストレス。欲しいものが手に入らなかった、選考に落ちてしまった、本番前のナーバスさ──など。 |
| 4.経済的要因 | 生活苦や借金、金銭トラブルなど、金銭に基づくストレス。 |
| 5.社会的要因 | 職場の人間関係や、仕事に対する不満。ご近所トラブルや夫婦喧嘩など、社会生活に伴うストレス。 |
ストレスフリーなライフスタイルとは、これらのストレス源にできるだけ影響を受けないライフスタイルのことです。つまり「心身共に健康的で、不満や不安がなく、経済的にも安定しており、人間関係や仕事も順調」な状態を目指すということです。
「そんなことが可能なのか?」と疑問を抱く人もいるかもしれません。
これら1~5のストレス源には適切な対処法があります。しかし、個々の性格や特性、生育や環境などにより成果に差が生まれるのも事実です。たとえば、人によっては良好な人間関係を築くのが容易であっても、別の人には困難な課題である──ということは当然あるでしょう。
このように、1~5の対処法が必ずしもすべての人に適用されるわけではありませんが、問題や課題を解決するヒントにはなるはずです。
それでは、次項からは「ストレスフリーなライフスタイル」を実現するための、1~5それぞれのストレス源への対処法について解説します。
ストレス源への対処法

1.身体的要因
2.精神的要因
3.心理的要因
4.経済的要因
5.社会的要因
それぞれのストレス源への対処法を順に解説します。
1~2.身体的・精神的要因への対処法
身体的要因によるストレスは、ほとんどが「外科的な障害」「内科的な障害」に分類されます。たとえば交通事故や運動中のアクシデントによる怪我(外科的)、生活習慣病や感染症、ガンといった病気(内科的)です。
こうした障害の治療はかかりつけ医に相談するのが適切です。自分でできる対処法も限定的で、たとえば交通事故に遭って骨折してしまった場合、事故に伴う痛みや不便さへの対処法はありますが、骨折そのものをすぐに治癒する方法は「固定して安静にする」ほかありません。あるいは手術などで外科的に治療するといった方法になります。
もちろん、メンタル状態や生活環境を適切に整えることで免疫力が高まり、治癒が早まる可能性はおおいになります。ですから、この場合の自分でできる対処法は、「快適に気持ちよく過ごせる環境を整える」ということになります。
「2.精神的要因」も同様で、精神疾患を発症してからストレスに対処するのではなく、精神疾患を発症する前からストレスフリーなライフスタイルを実践しておくのが理想的です。なぜなら、ストレスはさまざまな精神疾患のリスク因子として広く知られているからです。心を健全に保つ習慣があれば、精神疾患の発症率が下がる可能性があります。
いずれにせよ、以降で説明する3~5のストレス源への対処法が、1と2に起因する障害の予防にも役立つでしょう。
3.心理的要因への対処法
心理的要因によるストレスとは、人や物や事象に対する不満や怒り、不安、悲しみなどに基づくストレスのことです。つまり、感情が安定すれば避けられるリスクということでもあります。
たとえば欲しいものが手に入らなかった時、多くの人は不満を抱くでしょう。この瞬間にストレスが発生し、免疫力の低下を招きます。希望する会社への転職を考えたものの、選考に落ちてしまった場合も同様です。「この会社で働きたかったのに……」という不満がストレスにつながります。こうしたストレスが蓄積すると、病魔が近づいてくるというわけです。
さて、これらの不満は実は、外部から与えられたもののようでいて、実は「自分自身が作り出しているストレス」に他なりません。
自分の中の何がこうした不満を作り上げているのか?
その正体は「期待」です。
「あれが欲しかった」
「あの会社で働きたかった」
「こんな思いをしたくなかった」
すべては自分の中にある「〇〇だったらよかったのに」という期待から生まれるストレスなのです。ですから、こうしたストレスを排除するには「人や物事に期待しない」のが有効です。
言い換えると「自分の不満を人のせいにしない」「他責思考に陥らない」「他人を処罰しない」「被害者でいようとしない」という言い方もできます。
こうしたマインドを構築するには、「ロジカルシンキング(論理的思考)」と「課題の分離」を練習するのがおすすめです。この二つについては、別の記事で詳しく解説します。
また、「心のレンズを変えるだけで健康に│ストレスとの正しい向き合い方」の記事も、ストレス管理に役立つヒントが満載です。ストレスと上手に付き合えるようになりたい方は、併せてご覧ください。
4.経済的要因への対処法
経済的要因から生じるストレスに対処するには、「物質的豊かさに依存しない」のが一番です。
もちろんお金がないと生活ができませんし、経済苦は大きなストレス要因でもあります。
とはいえ、足るを知らないと、人はどんどん増長し欲深くなっていくものです。
お金に囚われ過ぎると、人は容易に判断を誤ります。たとえば収入で人の価値を決めたり、着ている洋服や身につけている時計、乗っている車などで人となりを判断しようとしたり。
自分の目で見、頭で考えて判断するよりも、収入や服装などわかりやすい基準で人を判断した方が、確かに簡単で楽でしょう。
しかし、こうした小さな手抜きを続け、あまつさえ承認欲求に溺れるようになると、やがて人が離れていき孤独になってしまいます。多くの人はそこで「自分はお金よりも大切なものを失ってしまった」と気付くのです。
お金は確かに生きていく上で必要なものですが、お金よりも大切なものが世の中にはたくさんあるという当たり前のことを忘れてはいけません。
5.社会的要因
社会的要因によるストレスとは、職場の人間関係や仕事に対する不満。ご近所トラブルや夫婦喧嘩など、社会生活に伴うストレスのことです。
ブラック企業を例に挙げると、パワハラ上司によるストレスは「社会的要因によるストレス」といえます。一方、低賃金は「経済的要因」です。また、「休みたいのに休むことが許されない……」は「社会的要因」で、「辞めたいのに辞められない……」は「心理的要因」のストレスに分類されます。
さて、社会的な要因に基づくストレスは、実は解決がさほど難しくありません。ただし、それなりに大きな代償を支払わなければならないケースが多い傾向があります。
たとえばブラック企業での労働にストレスを覚えているなら、退職なり転職なりすればいいわけです。しかし、実際にはそう簡単ではないでしょう。ただでさえ心身が消耗している状態ですし、転職活動などしている時間的余裕もないはずです。退職したら退職したで、当面の生活の不安もあるでしょう。とはいえ、心身の健康を損なってまで、会社や上司に貢献する必要が本当にあるでしょうか?
夫婦関係に悩んでいる場合も同様です。たとえばパートナーからDV被害を受けているなら、行政の専用窓口に相談したり、弁護士に相談して調停離婚を検討したりすればいいわけです。しかし、やはりそれだけの精神的余裕がなかったり、パートナーの報復を恐れて行動に移せなかったりするケースがたくさんあります。増して子どもがいればなおさら、多くの人は「子どものために離婚せずにいたい」「自分さえ我慢すれば」と考えがちです。
こうした問題に対処するために、押さえておきたい大切なポイントが2つあります。
1つは「常識に囚われない」こと。
もう1つは「自分で判断しない」ことです。
「常識に囚われない」というのは、先述したケースで言うなら「離婚は悪いこと」「退職は悪いこと」といった常識(思い込み)を捨てるということです。
確かに昔は「離婚=悪」「退職=悪」のような風潮がありました。しかしそれも今は昔。現代では離婚は「結婚に失敗した人」ではなく、むしろ「離婚に成功した人」と前向きに解釈されるのが一般的になりましたし、「退職=悪」どころかキャリアステップについて考えるのが当たり前の時代になりました。
社会的要因に基づくストレスに対処するには、常識や思い込みに囚われない柔軟な決断、柔軟な選択をする必要があります。
次に、「自分で判断しない」ことも大切です。なぜなら、大きなストレスにさらされている人間は、判断力や冷静さを欠いている場合が多いからです。特にブラック企業やパートナーのハラスメントを受けている被害者は、加害者に洗脳され、物理的にも精神的にも支配されてしまっているケースが多々あります。
ですから、とにかく「第三者に相談する」のが大切です。
両親や親戚、親友など信頼できる人に相談してもいいですが、できれば行政の相談窓口や弁護士など、専門家に相談するのが理想的です。
行政窓口への相談はもちろん無料ですし、弁護士への相談や依頼も、法務省所管の法テラス(日本司法支援センター)を利用すれば、経済的負担を最小限に抑えることができます。
ストレスから解放されるために
心身共に健康的に過ごすには、免疫力を高く維持する必要があります。そして、高い免疫力を維持するには、本項で解説した通り、ストレス源にできるだけ影響を受けないライフスタイルを実現する必要があります。
ストレス源にはさまざまな種類がありますが、いずれも適切に対処すれば、ストレス値を軽減することが可能です。もちろん、そのためにはある程度の知識や工夫が必要です。
当ブログでは引き続き、ストレスに対処するさまざまな知恵とアイデアを発信していきます。快適で健康的なライフスタイルを実現したい方は、ぜひ他の記事も参考にしてください。
【参考資料】
・厚生労働省「自殺統計でみた自殺者数の年次推移」




