医療に必要なのは“治療”だけじゃない! 思いやりとケアがもたらす自己治癒の科学

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現代医学はこれまで、病気の原因を細菌やウイルス、遺伝子異常など「物理的な要素」に求めてきました。しかし、人間の体には、それらを乗り越えるだけの力――すなわち「自然治癒力」が備わっています。そして、その力を引き出す鍵となるのが“心”のあり方です。

近年は、科学分野においても物質以外のものが再評価されてきています。たとえば、思いやりや共感、安心感といった“ケア”がもたらす身体的な影響などです。

今回は、「治療行為そのもの」ではなく、「患者の心に寄り添うケアの力」について、具体的な究や事例を交えてご紹介します。

癒やしを生むのは薬だけではない

「感情」が体に作用することは、科学的にも明らかになっています。唾液の分泌、心拍数、血圧、腸の動きといった一見すると“無意識”に見える身体反応も、実はストレスや安心感によって大きく左右されます。これらの働きを司るのが自律神経系であり、脳や免疫システムとも深くつながっています。

たとえば、移植手術を受けた患者が、精神的に不安定な状態にあると、拒絶反応が強く出やすいことがわかっています。失恋や失業、うつ状態などの心理的要因が、移植臓器の定着に影響を及ぼすのです。

また、慢性疲労症候群の研究でも、「病気は治らない」と思い込んでいる患者ほど回復が遅くなる傾向があることから、心の状態が治療の成否を大きく左右する可能性はもはや疑いようのない事実です。つまり、患者が「自分は不治の病に冒された」と信じ込めば、実際にそれが不治の病になる可能性すらあるということ。それだけ「思い込み」の影響は大きいのです。

“共感”がもたらす生物学的な反応

「誰かに話を聞いてもらっただけで、心や体が軽くなった気がする」という経験はないでしょうか。実はこれは、単なる気のせいではありません。親身に話を聞いてもらうことが、実際に生理反応を引き起こすことがわかっています。

医師と患者の1対1のやりとりの中で、患者が「この先生は自分を本気で気にかけてくれている」と感じると、ストレスホルモンの分泌が減少し、副交感神経が優位になります。それにより、呼吸数や心拍数が安定し、リラックス反応が高まり、免疫力が向上するという、まさに生物学的な反応が起こるのです。

思いやりや安心感を感じたとき、脳内ではオキシトシンやエンドルフィンといった「癒しのホルモン」が分泌されます。これらのホルモンは、痛みを緩和し、気分を安定させ、免疫系にもポジティブな影響を与えます。

言い換えれば、「あなたのことを大切に思っています」という気持ちは、医薬品に匹敵する治癒効果を生む可能性があるのです。これが、近年重視される「ケア」や「ホスピタリティ」の力です。人間には薬剤や手術など物質的アプローチ以前に、安心や信頼を与えてくれる非物質的な要素が欠かせないです。

現代医療に足りないものとは

現代医療は日進月歩で進化しています。画像診断、手術技術、投薬管理――すべてが高精度で進んでいます。しかし、それと引き換えに失われてしまっているものがあります。それが「人間としての関わり」です。

忙しさに追われた医師が、表情も変えずに症状だけを確認し、機械的に処方箋を出す――。そんな医療に満足できない患者が、代替医療やスピリチュアルな手法に惹かれるのは、「そこに人間味がある」からかもしれません。

米国では、成人の約38%が何らかの補完・代替医療を利用しているというデータがあります。祈りを含めれば62%に達するとも言われています。

重要なのは、彼らが「科学的に正しい治療」を探しているのではなく、「安心できる場所」や「人間的なつながり」を求めているという点です。催眠療法や瞑想が効果を発揮するのも、その環境が癒しの場として機能しているからだと考えることができます。

疑似科学やスピリチュアルの立ち位置

現代は「科学信仰」といわれるほど、あらゆる物事に科学的根拠が求められる風潮があります。科学的に証明されないものは「非科学的だ」と嘲笑され、議論の場から排除されます。

確かに科学は、人類の発展や繁栄におおいに貢献してきました。しかし、基本的に科学は「既存の現象を数学的に証明する再現作業」であり、言うまでもなく現代の技術や知見では「証明できない現象」も世の中には数多くあります。

そもそもこの世界の大半の現象が科学的に証明されていないにも関わらず、科学的に証明されたものしか信じない──という視野狭窄は、むしろ個人の幸せや可能性、ひいては人類のさらなる発展や繁栄を妨げかねない危険な思想です。

とはいえ一方では、人の期待や願い、信じる心などにつけ込んで搾取する悪質な人間が存在するのも事実です。科学ばかりを盲信するのは危険ですし、かといって疑似科学に傾倒し過ぎるのも危険です。大切なのは、真実とそうでないものを、知見や経験、歴史と照らし合わせて、できるだけ高い精度で見極めることです。

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近年の医療現場においてホスピタリティやケアが重視されるようになってきたのは、臨床心理学など、人間の内的な部分にスポットライトを当てた学問の重要性と実用性が認められてきたからでしょう。今後、脳神経やメンタルヘルスに関する研究が進むにつれて、人間の脳や心、意識の仕組みが科学的に証明される時代がやってくるに違いありません。

しかし、今のところ現代日本における医療現場においては、「心が病気を治す可能性」についてあまり言及されないのが現実です。意外にも西洋医学が盛んな諸外国では、内科や外科と同じように心療内科が普及しており、多くの人が「ちょっとコンビニに買い物に行ってくるね」という気軽な感じで「ちょっとカウンセラーと話してくるね」という価値観や習慣を持っています。

それこそ、日本人が針灸や整体、カイロプラティックやヨガ教室に通うのと同じ感覚です。

少し昔の日本では「精神科=気が狂ってしまった人が行く場所」のような偏見を持つ人が多かった影響か、現代においても心療内科に通っていると言うと「え…?大丈夫…?」と身を引く人が多い様子です。

しかし、本来カウンセリングは「話を聞いてもらってすっきりする」ことを目的に利用できる気軽なサービスで、精神疾患があろうとなかろうと誰にでも利用価値があるものです。

ところが日本は偏見や先入観が強いため、ヨガインストラクターや茶道の先生、整体師やマッサージ師、スナックのママや占い師などがその役割を担っているのかもしれません。

近年は日本でも心理カウンセラーが増え、産業カウンセラーを常駐させる企業も増えてきました。各企業の健康経営への意識も底上げされ、これからの日本は、より「心」を重視した社会に期待できるかもしれません。

「あなたのことを気にかけている」の一言が最大の処方箋

医療の本質は「病を治すこと」だけではなく、「人を癒すこと」にもあります。そして、その力を持っているのは医師や薬だけではありません。私たち一人ひとりの「思いやり」や「優しさ」こそが最高の治療薬になるのです。

科学が進めば進むほど、私たちは「人としての温かさ」の価値を再認識する必要があるのかもしれません。

心身ともに健康的な日々を送るために、まずは身近な人に愛や感謝の気持ちを伝えてみませんか?その小さな行動が、実は私たちのQOLを高めるのにもっとも効果的な処方箋かもしれません。