感情が免疫力を左右する ~ストレスと幸福が体に及ぼす科学的な影響~

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私たちは、感情を「心」の問題として捉えがちです。

しかし実際には、感情は脳を経由してホルモンに影響を与え、免疫力や体調にまで大きく関与しています。

感情は主にホルモンや神経といった、目には見えない体のコンディションに左右されやすいため、悲しみや怒り、不安といった感情が、知らず知らずのうちに病気の引き金となることもあります。

もちろんそれは、意思の力だけでどうにかできるものではなく、メンタルの変化が体調に影響するからといって、必ずしも「メンタル管理が下手」なわけではありません。

今回は、脳科学と心理学の視点から「感情が免疫力に及ぼす影響」、そして「感情によるストレス反応を断ち切り、免疫力を高める方法」について掘り下げていきます。

感情の苦痛は心だけではなく体にも現れる

怒りや悲しみ、失望、フラストレーション、悲観的な思考など、いわゆる「否定的な感情」は、たとえ実際に脅威的な出来事が目の前になくても、私たちの体をストレス状態にします。

まず、否定的で感情的な動揺は、脳の「扁桃体(へんとうたい)」を刺激します。

扁桃体は、恐怖や不安などの情動を処理し、ストレス反応を引き起こす司令塔です。一度過敏になると、ちょっとした刺激でも過剰に反応してしまうようになります。そして、この反応が繰り返されることで、脳は「脅威を記憶」してしまうのです。

扁桃体が形成するのは「潜在記憶」、つまり無意識に刷り込まれた記憶です。

過去のトラウマや嫌な経験を何度も思い出すのは、この潜在記憶によるものです。

扁桃体と海馬のアンバランスが不幸を加速させる

扁桃体が過敏になる一方で、ストレスは「海馬(かいば)」という記憶をつかさどる部位の働きを弱めます。

海馬は新しい記憶を作る場所でもありますが、ストレスホルモンであるコルチゾールの影響により消耗してしまい、新しい記憶が定着しにくくなるのです。

その結果どうなるか――。

過敏になった扁桃体によって、恐怖や悲しみの感情が繰り返し無意識に思い出される一方で、現実に起きているポジティブな出来事は記憶に残りにくくなります。

こうして、実際には悪いことが起きていないのに、「何か不吉なことが起きそう」と感じてしまうのです。いわゆるトラウマを抱える人にありがちな「理由のない不安感」は、この脳の働きによるものなのです。

否定的な感情が免疫力を下げるメカニズム

ストレス反応によって分泌されるコルチゾールは、一時的に体を「戦闘モード」にするホルモンです。しかし、この状態が長引くと、ノルアドレナリン(やる気や集中力に関与)やドーパミン(喜びを感じる神経伝達物質)が枯渇し、気力が低下していきます。

また、コルチゾールが過剰に分泌される状態が続くと、セロトニン(幸福感をもたらす神経伝達物質)も減少し、ネガティブな気分が支配するようになります。

さらに深刻なのは、ストレスが「炎症性サイトカイン」の生成を促進することです。

炎症性サイトカインとは、炎症を促進する情報伝達物質のこと。つまり、炎症性サイトカインの生成が促進されると、体の内外で炎症が起こりやすくなるのです。

たとえば、ストレスによる胃の痛みや、皮膚の炎症。嫌な出来事などでストレスを感じるとヘルペスになったり、アトピーがひどくなったりといった経験をしたことがある人も多いでしょう。こうした現象も、ストレスによって炎症性サイトカインの生成が促進された結果だと考えられます。

さらには、慢性的な炎症反応が引き起こされると、がん、アルツハイマー、関節炎、心疾患などのリスクも高まります。

つまり、否定的な感情は、単なる気分の問題ではなく、「命に関わる問題」なのです。

楽観主義が免疫力を高める

悲観主義や絶望、無力感に囚われると、体のストレス反応スイッチが「入りっぱなし」になります。結果として、免疫力が低下し、感染症や内臓疾患のリスクも増大します。

一方、楽観的で幸福を感じやすい人は、脳内の「左前頭前野(ひだりぜんとうぜんや)」が活性化しています。

この部位は、希望を持ったり、将来に前向きな期待を抱いたりした時に活性化することがわかっており、ドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、オキシトシンといった“幸せホルモン”が関与しています。

これらのホルモンは、それぞれがストレスを軽減したり、炎症を抑えたりする働きを持っており、心身の健康を支えてくれる強力な味方です。

脳を幸福モードにする方法

ドーパミンは、目標に向かって行動し、それを達成した時に放出されます。達成感やワクワクする期待によって脳が快楽を感じるのです。

たとえば、「今度の休みにニューヨーク旅行を計画する」「ビジネスが成功してスペインのワイナリーに別荘を持つ」「憧れの人と素敵な時間を過ごす場面を想像する」といった想像は、脳の「側坐核(そくざかく)」を刺激し、ドーパミンが分泌されます。これにより幸福感が高まり、免疫力が向上するというわけです。

オキシトシンとエンドルフィンの絶大な効果

オキシトシンは、愛情や信頼を感じると分泌されるホルモンで、サイトカインの生成を抑え、炎症を鎮める作用を持ちます。また、セロトニンの受容体を活性化し、気分を明るくしてくれる他、扁桃体の暴走も抑えてくれる「安心ホルモン」とも呼ばれています。

さらに、オキシトシンはエンドルフィン(天然の鎮痛剤)を刺激し、心地よい多幸感をもたらします。運動、愛、音楽、笑い、触れ合いなどがこれらのホルモン分泌を促し、結果的に心と体を強化してくれます。

否定的な思い込みを手放す2つの方法

私たちは困難な状況に直面すると、無意識に「自分はダメだ」「きっと失敗する」などの否定的な思い込みに陥りがちです。しかし、こうした思考はストレス反応を加速させ、免疫力を著しく低下させるので注意が必要です。

ここでは、そうした思い込みから自分を解放する2つの方法をご紹介します。

① 思考停止法(ストップ・シンキング)

否定的な考えが頭に浮かんだ瞬間、「ストップ!」と声に出すことで思考を中断する方法です。

代わりに、楽しいこと、ワクワクすることに意識を切り替えるのがポイント。

この習慣を繰り返すことで、ネガティブな反芻思考のループから脱しやすくなります。

② 自己対話によるリフレーミング

もう一つの方法は、自分の思考に「なぜそのように感じたのか?」「その思い込みは本当に正しいのか?」と問いかけてみることです。

失敗から何を学べたか、逆の視点で考えることで、同じ状況でもポジティブな意味づけができるようになります。

例:友情が終わってしまった→「この経験を通じて、自分は人間関係で何を学んだか?」「次の出会いではどう活かせるか?」

このように視点を変えることで、否定的な思考が「成長のきっかけ」へと変わります。

思考の選び方が免疫力と人生を決める

感情は脳を介してホルモンに働きかけ、免疫力に大きな影響を与えます。否定的な感情や思い込みを放置しておくと、体にストレス反応が繰り返され、病気のリスクが高まります。

一方で、希望を抱き、愛情を持ち、楽しいことを考え、前向きに生きる習慣を身につけると、脳は「幸福モード」になり、免疫力が高まり、心身の健康が保たれます。

日々の思考をどう選ぶか――。感情は単なる「脳の反応である」ということを知り、うまくコントロールする術を学べば、人生はきっとより良い方向へ進んでいくでしょう。

さらには、それがあなたの免疫力を左右し、幸福と長寿を決める鍵となるかもしれません。